th side
初めて会った時、飼っていた犬に似ているなと思った。
つぶらな瞳と特徴的な唇の形、もちもちした肌に程よい髪の質と長さ。全てが愛犬と重なりまるで生まれ変わった姿のようだ。まさか勇気を出して入ったバーでこんな出会いがあるなんて。偶然だとは思えなかったし少しアルコールが入っていたのもあって勢いに乗って話かけた。
『あのすいません、もし良かったら、一緒にいいですか』
「え、俺と?...あの、失礼なんですけどどこかでお会いしましたっけ?」
『してない、ですね。ごめんなさい、こんないきなり。嫌なら大丈夫です』
「べつに、いいですよ。俺もたまには誰かと飲みたいし。俺と同い年くらいですよね?タメでもいいですか?」
『あ、はい!タメ大丈夫です!』
「じゃあとりあえず、乾杯」
お互い持っていたコップを持ちカチンと音を鳴らした。
話してみると本当に同い年で、音楽という共通の趣味もあった。なんだか久しぶりに同級生と会った気分になって楽しかったし、会社の飲み会みたいながやがやした雰囲気ではなく落ち着いた中でお酒を飲むから、お酒が喉に通りやすくてどんどん飲めてしまう。
「ねえ、なんで俺に話しかけたの?」
『んー?あー、なんかね、昔飼ってた犬に似てるの』
「犬?俺が?」
『うん、そっくり。目とか髪とか。わしゃわしゃしたくなる』
「なにそれ笑写真とか持ってないの」
『今は持ってない。ちっちゃいころ飼ってた犬だから、もう死んじゃったし』
「あ、そうなんだ」
『なんかさ、ちっちゃかったからかな、すごい覚えてるんだよね。特別なものに感じて。だから今もたまに夢に出てくる』
「...大切にしてたんだな」
『そうだね、大切だった』
コップに入った氷がお酒で溶けて音が鳴る。その姿をじっと見つめながら昔のことを思い出した。いつもだったらこんなにたくさん思い出すことはなかったのに、この人といるとなんだか昔のことを思い出すのも苦じゃない。悲しいんじゃなくて、ただ楽しかったって懐かしむこの空気がとてつもなく安心した。
彼を見るとやっぱり愛犬が重なる。今は凹む俺を心配してくれていた時の顔にそっくり。包みこみたくなるような気持ちに駆られた。
会計を済ませて外の気持ちいい風に当たる。結構な時間いたのではないだろうか。時計を見るともう優に2時間は超えていた。お酒も大分飲んだしさすがに酔いが回ってくる。もうこのままベットに入って眠りに着きたいくらいだ。そして、彼をぬいぐるみのように抱きしめて寝れたら最高なのに。
勢い、という言い訳をついて京介の袖を掴んだ。
『一緒に飲んでくれてありがと』
両手を開いて京介の胸に飛び込んだ。暖かくて心地よくてなんだか初めて会った人とは思えないほど落ち着いた。愛犬を思いっきり抱きしめたあの日々を思い出す。頬に涙が流れたけど知らないふりをした。
しばらく経つと京介も何も言わずに両手を俺の背中に回した。俺の気持ちを汲み取ってくれたのだろうか。京介の気遣いに感動する。初対面でこんなことするなんてあり得ないのに、そんな俺を受け入れた京介の器の広さに感謝した。このまま深く眠ってしまいたかった気持ちを抑えて京介から離れる。
いきなり現実を突き詰められた気がしてなんだか気恥ずかしい。そのまま顔も見ずに帰路を走り出した。
fk side
初めて会った時、愛犬に似てると言われた。
目とか髪とかが似ているらしい。動物に似ているなんて言われたのははじめてだったから変な感じがしたし、初対面で話しかけてきた時点でこいつも変なんだろうなと思った。行きつけのバーでまさかこんな出会いがあるなんて、あってたまるかとも思った。
話を聞いていれば、その愛犬は幼い頃に飼っていた犬らしくて大切に育てていたらしい。そんな話をする彼の顔がなんとも言えない表情をするから困った。一見悲しそうなのにどこか暖かい視線や言い方をするから、ただ、その犬がすごい大切だったということしか分からなかった。そんな彼を少しだけ愛おしく思った。
『一緒に飲んでくれてありがと』
店を出た帰り際、そう言われ抱きしめられた。最初はこいつ酔っ払いすぎだろと思ったけど、肩に水が落ちた感覚がしてからはこのまま受け入れてあげようと背中に両手を回した。
多分、大夢は辛かったんだと思う。初めて目を合わせた時にうっすら見えた隈が印象的で、ああこの人疲れてるんだろうなと一目見て思った。きっと1人で疲れや寂しさを背負っていたのだろうと思うと居た堪れない気持ちになる。そんな大夢を俺でいいなら受け入れてあげたかった。誰かの温もりを知ってほしかった。
数秒経つと俺から大夢が離れた。耳は少し赤い。そのまま俺の顔も見ずに走り出してしまった。俺も大夢から離れて一気に冷静さが戻ってきた。大夢から抱きしめられていた間、心臓のバクバクした音は聞こえなかったか心配になる。こんな気持ちには気づかなかったふりをして反対方向を歩み出した。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。