ゾムがルイーズの推薦状を書いているのを、私は見ているだけだった。
グルッペンはゾムがある程度書いたところを見届けて、口を開いた。
…怖。
一年間必死で、というところまでは分かってないにしろ、それが分かってしまうとは。
伊達に軍人やってないな、下手な嘘はすぐにバレてしまいそうだ。
これはマズイところに加入したかも。
男好きなんてバレたら叩かれる、しかしそれを隠すのも容易ではない。
女だから入れたくない、ということか。
やはりそうか、男好きと女嫌いは相性が悪いにも程がある。
それに対して怒ったルイーズが、何かしらの反論をしている間、
私はこれから幹部をどう落とし、そして戦争でどう生き残るかを考えていた。
そうだな、まずは落とす。
そうしたら、戦争でも多少守ってくれるかもしれないし、
戦略を立てる時点で、まず前線に無理矢理に持っていこうとはしないはず。
で、落とす算段だ。
最初にゾムから手をつけるべきか?
私のことを気に入っていないようだ、それは他の幹部も同じだが。
しかしルイーズのことを気に入っている点。
そこがダメだ。
多分、他の奴らは多少後回しでも、ゾムさえ落とせたらその過程で勝手についてくる。
否、逆に私のことを割と気に入っている男、グルッペンから落とすべきか。
彼は総統だ、発言力もある。
そんな男が私に落ちれば、他の奴らはそれに付き合わなければならないだろう。
だからグルッペンから手をつけるのもアリ。
…とりあえずは様子見だな。
グルッペンがどれほどの発言力を持っているのかも知らないし、
ゾムが、どれほどルイーズを気に入っているのかも分からない。
それによって先に手をつける方を決めよう。
気付くと、目の前にオスマンの顔があった。
あっ、イケメン…♡
じゃなくて、なんだ?
ああそう。
別にいいよ好都合だし。
でもそれにしては。
辞めると自分で言っていながら、入ってくれと懇願しているゾムに甘えている。
過度に必要とされていることに対して、喜びのようなものを感じている。
そんな表情。
今まで必要とされてこなかった、または酷く虐げられてきた。
それだから、ゾムに必要とされていることが無意識に嬉しい。
そう言ってほくそ笑むと、ルイーズは整った顔を赤くして私を睨んだ。
ルイーズは私の手からペンを奪うようにして取り上げると、
乱暴に、勢いよく名前を書いた。
紙が破れてしまうぞ。
そしてこれまた乱暴にペンを置くと、拗ねた顔でそっぽを向いた。
そのあと部屋を与えられ、簡単な荷物を崩し終わった私は、
新品の、支給されたベッドの中で、私は一人蹲っていた。
そのとき私の頭を占めていたのは、嘘だろ、という言葉それだけであった。
あんなの聞いてないぞ。
まさかライバルが現れるだなんて!
想定外だ、幹部にさえなれば、女などいないと思っていたのに!
そもそもの倍率と、厳しい試験によって女は基本的に落ちる。
体力的なところもあるが、面接でボロを出し男好きがバレて落とされるのが現実。
そこで私は、厳しく、それも噂になるくらい自分を鍛え上げた。
その間他の試験を受けようとしている女どものことを調べ上げ、
さりげなく接触することで、試験そのものを受ける意志から破壊していった。
もちろん、私だって完璧とは言い難いから、取りこぼしはあったんだろう。
しかし取りこぼしの中から、あんな逸材が、しかも幹部になって出てくるとは。
どんな確率だ畜生が!
それにアイツ何なんだ、私のことを知ってるかのような態度だった。
必ず加入しなければならない理由というのも気になるところだ。
つまり私がこの軍に入ってまずすることは、男たちを落とすことでも訓練でもなく、
ルイーズについて残っている、全ての情報を手に入れること!
軍の整った設備を利用できるのはありがたいからな、またとないチャンスだ。
そんなことを考えながら、まずは自分の持つ端末であるものを注文した。
小さい、特注の盗聴器である。
私がここに合格した祝いの日にもらった金は全て使った。
金なんて、軍にいたら自然と貯まる。
惜しむことはない。
そしてそれを、ルイーズが入浴中に、部屋の滅多に見ないところに付けた。
ルイーズの奴、済ました顔の下に何を隠しているのか知れない。
運良く退職に繋がる秘密が暴けたら、それを提出するまでだ。
しかし盗聴器を提出するということは、私も相応のリスクを背負う。
何故しかけたのか、なんて聞かれたときに、スラスラ嘘が言えるように、
言い訳ばかり考えていた。
彼女の部屋からの帰り道、私は幹部の誰かとすれ違った。
たかだか手合わせなんかで死にたくない。
本気を出されてしまったら勝ち目はないし、適度にハードルを下げておかねば。
じゃあまた今度、と言って去っていく二人。
…これは困ったことになった。
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!