ぶりっ子とは何か。
かわいこぶりっこの略である。
つまり本性を隠し、可愛いふりをして、人を誑かす人間のことである。
よく悪いことかのように言われるが、結局は世の中全員ぶりっ子なのだ。
本性を隠して他人にいい印象だけを与えようとしている時点で、それはぶりっ子だ。
それが悪いことだろうか?
自分を殺して幸せを掴んで何が悪い!
それは相応の努力をしたからであり、隠し事を責められる筋合いはない!
確かに人を傷つけるのは、決して褒められることではないのは分かる。
しかし人が傷つきたくないと願うのも、
他人のことを考えずに、自分の幸せを願った結果であると私は考える。
傷つけてくる人間が、そうしなければ幸せになれぬから傷つけているかもしれない。
そんなことは考えもしないのだろう。
被害者意識なんてものも、所詮はそいつが、他人の幸せだけ願っていたら生まれない。
だからといって別に、弱者の抵抗を否定するわけではない。
自分の幸せだけ考えることの何が悪いのだと言っている。
私は、さも自分だけが不幸であるかのように振舞う奴が嫌いなのだ。
結局、世界は幸せの押し付け合いだ。
それに負けたら自分が不幸になる。
だから私は抵抗する!
私の幸せを押さえつけてまで幸せになろうとする人間を蹴散らし、
私の幸せを信じて、支えてくれる人間たちを手中に収め、
そして世界で私だけでもいい。
私だけでもいいから、幸せになりたい。
努力を重ね、苦しい道を歩む。
その上で、私は幸福に手を伸ばすのだ!
…私に、
私にとって幸せとは。
それを掴む方法とは。
承認欲求を満たすことだ。
褒められたい、愛されたい。
それも、無条件に。
まあ、単純に言えばモテたいのだ。
それが私を幸せにする方法。
なら、男ウケを狙うしかないよね。
鏡の前でお化粧をしながら、私は呟く。
ダイエットも、スキンケアも、体型維持も、全部男ウケのためにやってること。
人に嫌われないように愛想を振りまく方法も何もかも、
私はそのために習得した。
可愛いお洋服も、多少のバカっぽさも、
全部、計算したからやれてること。
なのに、そんな努力もしないで生きてきた、男ウケの悪い女共からは、
街を歩く度に睨まれる。
ばぁ〜か!
お前らの努力不足だ、出直せブス共!
バイトして金貯めて、整形でもしろ!
そしたらちょっとはマシになるだろうよ!
そう言いたいのを我慢して、私は今日も媚びを売るのだ。
そう、媚びを____
この男はパン屋の主人。
嫁も子供もいるくせに、ちょーっと押したらすぐ顔赤くして堕ちちゃうんだから。
本当馬鹿だよね!
うお、うめえ。
こりゃ爆売れ確定だな。
イケメンばかり?
そんなの聞いてないぞ。
いや、私が自分磨きに夢中になりすぎて世情に疎くなってたんだろうけど。
でもそれなら、私も志願したい。
来年に向けて勉強と、訓練だな。
死ぬほど忙しくなりそうだが、元々こうしてパン屋の主人と話しているのも、
モテるためなのだ。
なんだかんだ良い奴ではあるんだよな、このオッサンも。
私はその日から、貯金に勤しんだ。
訓練するにも金が必要だからである。
そして軍にはいるための綿密な計画、それに沿った訓練内容を考え、
実行し、時々差し入れのパンも食べながら、着実に力をつけていった。
正直、承認欲求を満たすために行動する私に勝てるものなど誰もいない。
もちろん政治・経済学や医学にも力を入れ、武力以外の貢献もできるようにする。
筋肉トレーニング、対人戦におけるスキル、軍に関わる凡そ全ての学問。
それを一年間で必死に身につけたところで、経験者には勝てない。
そんなことは分かっている。
だから地元の自警団にもお願いして、任務の機会を与えてもらったりもした。
そして近所の人たちには愛想を振りまくことを忘れない。
この一年間頑張った。
今まで以上に本気で頑張った。
頭が弾け飛びそうになり、死にかけながらも努力を怠らなかった。
結果、
家の中で、合格通知書を握りしめて私は歓喜の声を上げた。
一つ歳をとった私は、パン屋の主人に挨拶に行くことにした。
すると家から出た途端、何かが弾けるような音が鳴り響いた。
見回せば、近所の方々がクラッカーを持ってにこやかに立っていた。
彼らは私の驚く顔を見るなり、おめでとうと口々に叫んだ。
私が入軍試験に合格したのを、心から祝ってくれているのである。
そりゃあ多少祝ってくれるだろうとは思っていたが、ここまでとは。
どうやらこの地域初の女性合格者ということらしいので、
市長が率先して、この宴を開いたという。
要するに、市長が私を好きすぎてテンションが上がってしまったわけである。
なんだそれ。
その日は一晩中、楽しい夜を過ごした。
そして次の日の早朝。
私は昨日の宴に疲れて、静かに眠った人々を背に家を出た。
早朝のまだ涼しい空気が頬を撫でる。
荷物は、昨日宴を早めに退場して、寝る前にまとめておいた。
必要最低限でいい。
どうせお化粧などは訓練で崩れてしまうし、軍人は金が入るからまた買える。
私の人生は、これで満ち足りる。
ここから昇進して幹部にさえなれたら、もう望むものは何もない。
城に着くと、誰かに声をかけられた。
うわ待ってイケメン、強そう。
何?私に惚れた?えそうなの?
あ、違うのねごめん。
でもどう見ても強者だな、何の用だ?
そう言われて腕を引かれる私。
まあどう考えても強いので、幹部以上であることは間違いない。
だがこの流れなら不審者でもおかしくない。
え…それ、って。
この国の、総統閣下では…?
私の掠れた声が、口から漏れた。
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。