瑠璃音と一緒に来たのは、陸地の校舎内にある大会議室だった。
アオイが呼んだのは瑠璃音のあだ名である。アオイは仲良くなりたい人にあだ名をつける癖があるのだ。
二人がそんな話をしていると、目の前の会議室の扉が開いた。
二人より頭半分ほど背の低い少年が扉を開けて迎え入れてくれた。同級生だろうか?ふわふわした赤い髪が目の高さで揺れながら移動していく。
十三歳くらいだと思ってました、とは流石に口に出さなかった。だが校長の澄晴同様、艦乗りとしては既に人生一周したくらいの貫禄が漂っている。
言いつつ飛鷹は後ろの席を指差した。
黄色の瞳を片方だけパチンと閉じ、ひらひらと手を振った少女に瑠璃音が反射で聞き返した。
指さしで指名された少年が慌てて顔を上げ、自分の顔を指差す。
瑠璃音の言い方からしてあまり触れてはいけない事なのだろうと想像できたので、三人は触れないでおいた。ここにいる誰も空気が読めないほど愚鈍ではない。
冷静に会話を切り上げた飛鷹の指示で全員おとなしく着席した。飛鷹が配ってくれた資料の表紙には、「艦長の心構え」とだけ書かれている。新入生を歓迎する言葉など無いし、入学式のオリエンテーションでは定番の桜の形の装飾も無しだ。
テンションが上がったハルは、飛鷹の話が始まる前にん?と思い出したように首をかしげた。
アオイが割り込むと、リクは苦虫を噛み潰したような顔になった。女子三人が不思議な顔を見合わせていると、飛鷹が嘆息して言った。
一方その頃。入学式が終わった港を一人の少女が爆走していた。
彼女の名前は幸福凪乃。演技のいい名前とは裏腹に絶望的な不幸体質である。
そして、本来であれば艦長説明会に出席するはずだった冬月の艦長だ。
無我夢中で走っていたので正面から歩いてきた人物に気がつかず、思いっきり激突してしまった。
尻餅をついた凪乃に手を差し出してくれた男性は、真っ白な詰め襟の軍服を来ている。旧海軍に近いデザインだから海洋高の教員だ。
綾波の後をついて歩きながら、凪乃は密かにほっとため息をついた。
説明会が始まる直前、会議室の扉がガチャリと開いた。
飛鷹が眉をひそめると、綾波の後ろからおずおずと少女が出てきた。
アオイの言葉に小さく頷き、綾波は黒く長い髪をなびかせて颯爽と去っていった。
凪乃はリクが開けた席にちょこんと座り、資料をもらって小さく頭を下げた。
雪風は一年生の旗艦だ。その艦長であるアオイに質問が振られたのはある意味当然なので、誰も驚かない。
全員の考えを一通り聞いてから、飛鷹はまた正面を向いた。手元の台本には先程から一度も目を向けていない。
飛鷹の言葉に、一同は起立して敬礼を返した。
自分達の双肩に仲間全員の命が乗る。その重さを改めて実感しながら。
コミカルな会話を繰り広げながら、二人は雪風へ向かった。
もう艦長以外の生徒は自分達を待っているはずだ。





















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!