あの日、
あの夜、
スンミナと別れを告げたあの時から、全てが始まっていた_______
練習室の扉をそっと閉じて部屋を出る。
外に行くともう暗く、星が点々と輝いていた。
待っていたメンバーたちがコチラに手を振っている。
今日がアイツの誕生日だった事もあいまってか、全員で近くのモールに行くことに。
夜道を歩きながら悶々と、アイツの好きそうな物、喜んだ顔の想像に浸る。
するとハニが耳元にコソッと話しかけてきた。
そういえば、ハニは俺の恋愛事情を知ってる唯一の人だった。
俺のためにスンミナと二人きりの時間をつくろうとしたり、俺が素直になれるようサポートしてもらったり…
そんなハニがイエナの事が好きだって事も俺だけが知っている。
きっと、ハニの恋は叶う。
いつかこの目でその姿を見るのが密かな楽しみ。
〜〜〜
店内に入ると、陽気な音楽や人の喧騒、知り合いのアイドル達の広告などが掲載されていて、夜にも関わらず何だか時間感覚がバグりそうだった。
初々しい恋真っ只中のみんなに割り込むのはやめておきたかったから、俺は一人で雑貨店に入った。
〜〜〜
雑貨店には、不思議と誰もいなかった。まぁ、こんな時間に雑貨店に来る人なんてそうそういないけど。
店内をぐるぐると回りながらいろんなものを見て考える。
人を喜ばせるプレゼントなんてよく分からないし、、
これだ!という物がなくて途方に暮れていると、ふと壁に飾ってある絵に目がいった。
作品の題名は、
『月下美人』
白い羽を生やした天使みたいな人物が満月を眺めている絵で、作品から神秘的な何かが溢れ出ているような感じだ。
絵にはあまり詳しく無い。さほど興味もない。けれどこの絵からは“何か”を感じる。
気づいた時には引き込まれるように、絵に釘付けになっていた。
俺らしくないな、絵に感動するなんて。
そう思い、絵から目を離した。
ここにずっといてもいいプレゼントが見つかりそうにない。
店内を出ようと振り返った、その時…
火、火、火
視界が火で埋め尽くされている。
こんなに間近に火が近づいていたのになぜ俺は気づかなかった?
もう手遅れ。
直感がそう叫んだ。
熱い、苦しい、見えない。
見えない…
炎が全てを包み隠して見えない。
燃えて消えてしまって見えない。
…8人で歩む未来が…
見えない…
他のメンバーは逃げれただろうか?
スンミナは…?
あの笑顔、あの声、あの背中、、
頭に溢れかえるのは大切な人たちの顔。
まさかこんなところで終わるとは思ってなかった。
残ったのは漠然とした後悔だけ…
やり残した事が沢山ある…
『もう一度会いたい』
炎に囲まれ、心の底からそう願った。
メンバーたちが居なくなった。
火は恐ろしい。
最初は小さくても、止めどなくどんどん広がって、最後には何も残らない。
ピロンッ
スキジキから連絡があり、「スンミナはとりあえず宿舎に戻れ」とのこと。
「わかった」
とだけ返信して宿舎に戻った。
〜〜〜
電気も付けずにリビングへ行くと、ヨンボガが用意したであろうケーキが1本の蝋燭と共に置いてあった。
ライターで蝋燭に火をつけ、その小さい火を眺める。
蝋燭が溶けて短くなっていくようにゆっくりと、僕の目からも水が流れて出て行った。
もうこれ以上出ないくらい涙が頬を伝わった頃、蝋燭が消えた。
スマホを開いて時間を確認すると、23時52分と表示されていた。
待ち受け画面はメンバー全員で撮った写真…
僕は思ってたよりもメンバーのことを知らなかった。
思ってたよりも簡単に消えてしまった。
あんなに一瞬で失ってしまうなら…
もっと大切にしておけば良かった。
気づいた時には宿舎を飛び出していた。
〜〜〜
屋上に来た。
涼しい風が頬を掠めて、僕の体を冷たくしていく。
なんで僕を置いて行ったの。
そう思ったけど、僕も後を追いかけたらいいんじゃないかと考え直した。
ちょっと肌寒いな。
でも、会いに行けるなら別に怖くない。
またやり直せるなら、
もっとみんなの事知って、
たくさん話して、
“幸せなところを見届けたいな…
もしみんなの“幸せ”の代償に何かを犠牲にしないといけないなら、僕がなるから。
もう少しだけ時間が欲しかった。
…じゃあ、またね。
ーーー
よくある話。
大切な人が他界したショックで飛び降り自◯。
そのよくある話の一例にきっと僕もなった。
ーーー
あー…
頭がクラクラする…
視界がボヤける…
綺麗な満月…
『もう一度会いたい』
チカチカ光る星と街のネオンに囲まれ、心の底からそう願った。
_______この物語は、
二人の願いが重なってできた奇跡か。
どちらかが見ている幻想か。
神様が気まぐれで作った世界線か。
誰かが無理矢理作ったハッピーエンドか。
とにかく、彼らは今、“幸せ”だ。
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。