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第1話

師兄
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2025/04/08 07:28 更新
師兄
彼がどんなに醜い罰を背負ったとしても、私の英雄なのには変わりない。希望を与えたとしても美しい花はすぐに枯れてしまう。花には高価がある。
綺麗な物程良い物。美しい物は期待出来る物だと人々は感じる。でもそれは人が決めた事で実情、同等な価値に過ぎない
彼は少し間違えただけだ。次は上手くやれるだろう。もう人を失わずに済むように。彼の師兄すひんが心を込めてご奉仕致しましょう
師兄すひん
お前が明日も明後日も私を必要としてくれるなら其で良かった。お前に師兄すひんと呼ばれる度に何度も私の居場所は此処だと感じる事が出来た。徒弟とていは贈り物を良くする。何度も私に花を捧げた。欲しいとは言っていない。好きとも言っていない。ただ徒弟とていがくれる贈り物は全て嬉しかった。要らないなんて思った事は一度もなかったと言えるだろう
師兄すひんは花、好きですか?」
「嫌いではない」
私がそんな冷たい風に返しても徒弟とていの笑顔は絶えなかった。私が居る内に徒弟とていの笑顔を何度見た事か両手じゃ数えきれない程の物だった。徒弟とていには感情が二つしかない
喜怒哀楽のような感情はない。徒弟とていには喜楽という言葉が似合うだろう
声を荒立てる事はなかった。私には徒弟とていが心配だった。何時迄も私の傍に居た。居ない日なんてなかったぐらいに私の傍に居た。
師兄すひん師兄すひん
「私は此処に居る。」
師兄すひん、ずっと一緒です」
「……仰せのままに」
徒弟とていの気持ちを考えずに確実にとは言えない約束をしてしまった。徒弟とていの事だ、きっと忘れる。忘れて徒弟とていの口から師兄すひんという言葉を聞く事は無くなるだろう。寂しいやら悲しいやらほんの少し複雑だった。私はお前を忘れないが、お前は私を忘れてくれ。お前に希望を与えさせたくないんだ。美しい花は枯れずにずっと咲いていて欲しいと願っていた。水を与える人が居なければ枯れてしまうなんて考えたくもなかった。徒弟とていが一人で生きていけると勝手に思っていた。何れも此も全て私の願望だった
師兄すひん… 学問、芸能などで、師とも兄とも仰ぎ尊敬し仕える人
徒弟とてい弟子でし特に、商工業見習いのために親方のもとで労務に従事する少年

師兄すひん、ふつつかものですがこれから御世話になります。汪渕ワンエンと申します」
母上が強制的に入れた教室。綺麗とは言えないおんぼろな小屋だったが其処に居るのはみなが恐れる程の毒舌剣豪。正直やっていく自信はない。辞めることはいくらでも出来るが、僕は其を望まないだろう
「君の名を呼ばない。」
ハッキリそう応える様に驚いて「え」と応えてしまった。キリッとした顔で睨んでは「呼ぶとでも」と応えた。此処まで毒舌剣豪だとは思わなかった
(顔はとても綺麗なのに勿体無い)
と酷く感じた。そう、容姿は誰もが美人と求めるだろうというぐらいに美しい人だ。綺麗な髪色に白の漢服が似合う人だ。おっとりとしたように見えるが誰もが毒舌と言い、しまいには毒舌剣豪と呼ばれるようになった。何故こう呼ぶのか、其は名前を知らないから名付けるしか無かったのだ。
(誰もが知らないってなんだ。一人ぐらい知っているだろう……)
と思ったが、本当に誰も知らないみたいだ
師兄すひん、貴方の名前は……」
言い切る前に口止めされた。そんなに自分の名前を言うのが嫌なのかと実感した。睨むが何処か目の奥が揺らぐように感じた
(言わないのではなくて…言えない理由がある?)
ますます師兄すひんが気になって仕方がなかった。師兄すひんは確かに毒舌剣豪だ。だが、僕達とは変わらない人間だ。きっと仲良くなれる。師兄すひんの事をもっと知りたいと感じた
師兄すひんのタイミングで教えて下さい」
「……今、聞かないのか」
「…教えてくれるなら聞きます。無理矢理聞くのはその…理性に反するので」
あははと笑った。ヘラヘラとした態度を見せるのはマイナスだと師兄すひんから教わってきた人に教えて貰った。打たれるとか何とか言っていた。でも何故か師兄すひんは黙り込んでいた。
(もしかして怒ってる?)
どうしようとあたふたしていると師兄すひんが口を開いた。
涛菁涵タオジンハン。私は此の名が嫌いだ。呼ぶのは辞めてくれ」
正直驚いた。弟子達が何度問い掛けても師兄すひんは名を教えてこなかった。涛菁涵タオジンハン、とても良い名前だとは思うが何が気に食わないのだろう。気になったが其は聞いては行けないと思い聞かない事にした
「分かりました。其なら師兄すひんと呼びます。」
手を差し伸べると師兄すひんは軽く手を握った。きっと僕なら上手く出来る。そう信じて生きていこう。そう心に決めた時だった
「遥か昔、 毒舌剣豪って寛容師兄の弟子だったらしい」
ある話が飛び回った。急に流れてきた噂に人々は囚われていた
「寛容師兄?」
そう問い掛けると人々を口を揃えて「毒舌剣豪よりも優しい人」だと言った
「寛容師兄に育てられたなら寛容師兄みたく優しくなる筈だ。何故……」
人々は疑問を抱えた。確かに不思議だ。親子で言うと、優しい親の元には優しい子が居る。厳しい親の元には厳しい子が居る物だ。人々は酷く悩まされた
「寛容師兄を汚したのも毒舌剣豪だ」
「寛容師兄が争いを犯したのも、元はと言えば毒舌剣豪が出来損ないだからだろう」
それはもう、酷い有り様だった。言いたい放題な此の場所で居続けるのは嫌に思えた
「僕に何があったのか教えてくれないか」
遥か昔なら僕が産まれていない頃だろう、師兄すひんについて知りたかったし寛容師兄とは一体何なのか知りたかった。
遥か昔、名は知られておらず寛容師兄と呼ばれる輩が此の町へ下りてきた。寛容師兄とは心が寛大で、よく人を受けいれる師兄すひんという事から名付けられた。寛容師兄が弟子を作りに此の町へ下りてきたと知った時人々は誰を差し出すのか酷く悩んだという。そんな時差し出されたのは名も無き輩だった。寛容師兄は「名が無いのは不便だろう。」と可哀想な輩に「涛菁涵タオジンハン」と名付けた
涛菁涵タオジンハンは名を貰った事に酷く喜んだと言う。涛菁涵タオジンハンと寛容師兄は、夜狩りに行ったり剣の使い方を教えたりとても良いひとときを過ごしたと綴られている。涛菁涵タオジンハンは寛容師兄と過ごす度に暖かい物に触れ初めて心を開ける人に出会ったと言った。寛容師兄は涛菁涵タオジンハンを良く思っていた筈だった
寛容師兄の目的は此とは全く違った。
この先の事をする為に親に承諾が必要だと寛容師兄は涛菁涵タオジンハンに言った。涛菁涵タオジンハンは寛容師兄を酷く信頼していた為軽々と両親の居場所を伝えた。その夜、寛容師兄は涛菁涵タオジンハンに連れられ両親の元へと行った。
涛菁涵タオジンハン、君の両親はどんな人?」
寛容師兄の問い掛けに無邪気に応えていたと綴られている
「とても優しい」
「とても?君は両親が好きかい?」
照れ臭そうにしている涛菁涵タオジンハンを横目に寛容師兄はどんな顔をしていただろうか。寛容師兄は着いて早々「帰ってくるのは遅いから涛菁涵タオジンハン、夜食の準備をしていてくれないか 」と問い掛けたそう。涛菁涵タオジンハンは寛容師兄をおいて、木を刈ったりウサギを捕まえたりしていた。そんな時、家の方から変な声がしたという。此処は森の中だから獣の声だろうと涛菁涵タオジンハンは気にしないでいた。帰ってきた寛容師兄を見て涛菁涵タオジンハンは酷く驚いたそうだ。綺麗な服が少し汚れていた。涛菁涵タオジンハンは問い掛けたが「大丈夫だよ」と寛容師兄は優しく涛菁涵タオジンハンの頭を撫でていた。
「小屋に戻ろう」
涛菁涵タオジンハンは嫌な予感がして自分の家へ目を向けようとするがその目を隠すように寛容師兄は涛菁涵タオジンハンの前へ立って「帰ろう」と言ったそうだ。震えて歩き出さない涛菁涵タオジンハンを見て寛容師兄は手を引っ張って連れて帰ったそうだ
夜が明けた頃涛菁涵タオジンハンの両親の遺体が発見された。その朝、寛容師兄は小屋に居なかったという。涛菁涵タオジンハンは寛容師兄を探し求めたが寛容師兄は涛菁涵タオジンハンの前には現れなかった。涛菁涵タオジンハンの両親は刺殺だった為、剣を使える物が疑われた。そう、その町ではまだ剣を上手く使える物は居なかった為、一番に疑われたのは寛容師兄に剣を教わっていた涛菁涵タオジンハンだった。殺す理由はないと今なら証明できた事だが、何故か人々は自分の考えに誤りはないと主張した 涛菁涵タオジンハンが両親を刺殺したと噂が飛び回っている頃、寛容師兄がふらっと姿を現した。涛菁涵タオジンハンは早速寛容師兄へ立ち寄った。
「何故ですか、何故ですか師兄すひん
寛容師兄は何度問い掛けても応えなかった。その姿を見て人々は「寛容師兄のせいにするな」と声を出したそう。涛菁涵タオジンハンの言う事に誰もが反論している頃、寛容師兄はそっと口を開いた
「何れも此も全て涛菁涵タオジンハン、お前の為だよ。」
「良かったな、此で強くなれる。」
強くなる為に好きな物等要らない。理不尽な良い癖に涛菁涵タオジンハンは酷く悲しんだそう
「両親が恋しいならば、お前も地獄へ行けば良い。誰もお前を必要としない」
ドン底に落とすように涛菁涵タオジンハンに棘のような事を言う寛容師兄。何処が寛容なのか分からない程とても醜い
縄で縛られ人々に押さえ付けられても涛菁涵タオジンハンは寛容師兄を睨むことを辞めなかった。
「誰かが幸せになる為には代償が必要だと言うのですか。」
「……其なら私を差し上げましょう。生きる価値のない輩が相応しいのでしょう」
小さな子供が此処まで声を張り上げた事に人々は酷く驚いたそうだ
涛菁涵タオジンハン。最初にお前を殺せば良かったな」
「お前には生きる価値がない。」
寛容師兄の発言を聞いて驚く筈なのに人々は洗脳されたかのように涛菁涵タオジンハンを殴り痛め付けていた。そんな中でも涛菁涵タオジンハンは声を張る事を辞めなかった。
「……何とも愚かだ。私には生きる価値がないのであれば貴方は生きる価値も無いが 死ぬ価値も無い」
「入れられる棺桶が可哀想だ……」
顔やら腹やら足やら殴られ腫れていた。骨は何度も折られ動ける様子ではなかった
其でも話続ける彼に酷く虚しく思えたそう
寛容師兄がその後どうなったのか分からない。涛菁涵タオジンハンは不老不死で死ぬ事は出来なかったが何年かは体を動かす事は出来ず、一人孤独に耐え続けたそう。涛菁涵タオジンハンの回復力を恐れ人々は少し距離を取るように接した
人々は涛菁涵タオジンハンを許す事が出来ず何度も罰を与えたが其でも、死ぬ事はなかった。この事は忘れられていたが今になって誰が言い出したみたい

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