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『女になった俺は幼馴染に抱かれました』~m×k~
Side康二
じりりりりり、とけたたましく、鼓膜を突き破るかのような勢いで鳴り響くアラームを、俺はベッドサイドのテーブルを手探りで探り、雑に叩きつけるようにして止めた。
んー…と、まるで熊の冬眠明けのような低い唸り声を上げながら鉛のように重い体を無理やり起こす。
カーテンのほんのわずかな隙間から差し込む朝日が昨夜の深酒でまだずきずきと痛む頭にやけに眩しく突き刺さる。
まだ完全に覚醒しきらない、眠い目をゴシゴシと擦りながらおぼつかない足取りでベッドから這い出て洗面所へと向かう。
これが俺のいつもと何ら変わらない変哲もない朝。
―――のはずやった。そう、この瞬間までは。
鏡に映った自分の姿を見て俺は固まった。そこにいたのは俺やない。
知らない女。
「……は?」
思わず漏れた声は自分のものとは思えないほど高くて澄んでいた。
え、誰の声やねんこれ。
俺の喉からこんな可愛い声が出るわけない。
パニックになりながらもう一度鏡をまじまじと見る。肩まで伸びたサラサラの髪。
ぱっちりとした大きな瞳。
華奢な肩。そして何より信じられないのは胸元にある二つの膨らみ。
ご丁寧にパジャマのTシャツの上からでもその存在を主張してきている。
「いやいやいや…ないないない!」
ぶんぶんと首を横に振る。
これは夢や。
きっと疲れてる。
そうに違いない。
俺は勢いよく自分の頬を両手で叩いた。
ぱちん、と乾いた音が洗面所に響く。
じんじんと広がる熱い痛み。
「……痛い」
痛いということはこれは夢やない。
現実や。俺の体に何が起こったんや。
―――俺、女になってる。
頭の中が真っ白になる。
どうしよう。
おかんもおとんも妹もまだ寝てる時間やけどいつ起きてくるかわからん。こんな姿見られたらなんて説明したらええんや。
しばらく考え込む。
「……めめ」
こんな時俺が頼れる相手は一人しかいない。
生まれた時からずっと一緒の幼馴染目黒蓮。通称めめ。
俺は急いで部屋に戻りスマホを手に取った。震える指で電話帳を開き『めめ』の文字をタップする。数回のコールの後ぶっきらぼうな声が聞こえた。
『……もしもし』
「めめ…、あのさ」
俺がそう言うと電話の向こうでめめが訝しげな声を出す。
『は?誰ですか。康二のスマホからかけてきてるみたいですけど』
「いやいや俺やって!康二!」
『?いや…声が全然違うけど。てか朝早くから何の用ですか?』
「それが…大変なことになったんや!なぁめめ 俺 女になってもうたかもしれへん…」
俺の必死の訴えにめめは盛大なため息をついた。
『朝から何言ってんの?寝ぼけてんの?』
「ほんまやって!信じてくれへんのやったら今すぐ家来て確認してくれ!」
『……はぁ。わかったよ。すぐ行くから待ってろ』
電話を切った後俺は部屋の隅で膝を抱えてめめが来るのを待った。
心臓がバクバクうるさい。
これからどうなるんやろ。
俺の人生どうなってしまうんやろ。
しばらくして玄関のチャイムが鳴った。
俺は慌てて立ち上がりそろりそろりと玄関に向かう。
ドアスコープから外を覗くとそこには不機嫌そうな顔をしためめが立っていた。
俺は意を決してドアを開けた。
「めめ…」
俺の顔を見るなりめめは眉間に皺を寄せた。
「……誰ですか?」
「だから俺やって!康二やって!」
俺がそう叫ぶとようやく目の前の状況を理解したのかめめは絶句した。
大きく見開かれた目が俺の顔から体へとゆっくり移動していく。
そして胸の膨らみで止まった。
次の瞬間めめの顔がみるみるうちに赤く染まっていくのがわかった。
「え…ほんとに…康二なの?」
「せやからさっきからそう言うとるやろ!」
信じられないといった表情で俺を見つめるめめ。その視線がなんだかむず痒くて俺は居心地の悪さを感じた。
これが俺とめめの奇妙で忘れられない3日間の始まりやった。
―――――――――――――――
「とりあえずうちに来て」
めめはそう言うと俺の腕を掴んで家から連れ出した。
俺の家と目黒家は隣同士。
数秒でめめの部屋に到着する。バタンとドアが閉められた瞬間俺は全身の力が抜けてその場にへたり込んだ。
「どないしよ…俺…」
「落ち着いて康二。まずは状況を整理しよう」
めめは冷静にそう言うけど俺の頭は完全にキャパオーバーやった。
女になってる。
その事実だけで十分パニックや。
「服…とりあえず着替えて。それ俺の親に見られたらまずい」
めめが指差したのは俺が着ているヨレヨレのTシャツと短パン。
確かにこんな格好でうろついてたら変質者やと思われるかもしれん。
めめはクローゼットから自分のスウェットを取り出して俺に放り投げた。
「これ着て。ぶかぶかだろうけど我慢して」
言われるがままに俺はめめのシャツに着替えた。確かに袖も裾も長すぎて萌え袖状態や。でもそれよりも気になったのはふわりと香るめめの匂い。
いつも隣にいるから意識したことなかったけどこうやって服を借りると嫌でも意識してしまう。
着替え終わった俺を見てめめが顔を赤くして視線を逸らした。
「そっそれ俺のシャツだから!」
「知っとるわ。てか何照れとんねん。中身はいつもの俺やぞ」
「わかってるけど…!その…なんていうか…」
めめが口ごもる。
その反応が面白くて俺は少しだけ元気を取り戻した。
女の体になったことで今までとは違う反応をされるのが新鮮やった。
「それにしても女の体って不思議やな。なんか体が軽いし、視線がいつもより高い気がする。あと、トイレの仕方がわからんくて焦ったわ」
「トイレの仕方は俺に聞かれても困るけど、視線が高いのは気のせいだろ」
「そうかなぁ。あとなんか自分の声に違和感あるわ。こんな可愛い声やったっけ、俺」
俺が自分の喉に手を当てて首を傾げるとめめが「知らないよ」と吐き捨てるように言った。
でもその耳が真っ赤に染まっているのを俺は見逃さなかった。
その後も俺は『女の体不思議発見伝』とでも言うべきか、髪の毛が長いせいで首筋がむず痒いとか、肌が昨日までの自分と比べ物にならんくらいすべすべしてるとか、いちいち世紀の大発見みたいにめめに報告した。
その度にめめは、心底呆れたような顔をしながらも、律儀に「へぇ」「そうなんだ」「よかったな」と、心のこもってない相槌を打ってくれた。
でもそんないつもと変わらないくだらないやり取りをしているうちに俺は少しずつこの非現実的な状況に対する恐怖よりも好奇心とそして何よりめめがそばにいてくれる安心感で、落ち着きを取り戻していく自分がいた。
「とりあえず服買いに行こうか」
「……女の服なんていらんよ」
俺はそっぽを向いて答えた。
男の俺がなんで女物の服なんて着なあかんねん。そう思うと無性に腹が立ってきた。
「でもさすがに下着はつけて…その…透けてるから」
めめが視線を俺の胸元に落としながら言う。
俺もつられて自分の胸を見ると確かにTシャツ越しに乳首の形がくっきりと浮き出ていた。
うわっ、まじか。
続きは、pixivにて同タイトルで公開中です。
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※こちらの作品には、心を奪うほど濃密で官能的なR-18描写が含まれます。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。