第9話

雪湯
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2025/10/13 09:17 更新

初兎に抱きかかえられたまま、あなたはぽつぽつと泣きながら廊下を進んでいた。

その頬を伝う涙を、初兎は優しく手の甲で拭いながら、静かに言った。
しょう
しょう
大丈夫。お湯、ちょうどいいくらいにしとるから。あなたちゃんがびっくりせぇへんように、ぬるめにしてもらったからな
あなた
……ヒック……グスッ……ポロポロ

あなたは無言のまま、小さくうなずいた。


背中には初兎の腕のひんやりとした温もり、そして歩くたびにわずかに揺れるリズム。


やがて、ふわりと木の香りと湯気の匂いが漂ってくる。
ほとけ
ほとけ
ここだよ~!
ちょっと癖のある明るい声がお風呂場に響いた。
ほとけ
ほとけ
ここ、ひとりじゃ入れなさそうだから、手伝ってあげてね。石鹸、泡立てておいてから。桶も用意してるよ
しょう
しょう
ありがとう。
あなたちゃん、ありがとう言える?
あなた
……ありがとう……ございます……
ほとけ
ほとけ
どういたしまして~!偉いね~
初兎は軽く笑って、あなたを脱衣場におろす
しょう
しょう
お着替え、ここにあるからね
と、布を柔らかくあなたの手に触れさせる。


あなたは戸惑いながらも、初兎の手の誘導を受けてゆっくりと衣を脱いでいく。


初兎もあなたの動きに合わせてゆっくりと手伝うが、けっして急かしたりはしなかった。
しょう
しょう
じゃあ、入るよ~


初兎の声に導かれ、あなたは慎重に一歩、また一歩と足を湯船へと入れる。


すぐに、ぬるめの湯が膝を包み込み、心地よい重さが身体にのしかかってくる。
あなた
あったかい……
しょう
しょう
後ろ流すから、びっくりせんでな~
ことん。桶に湯をすくう音のあと、
ざぶんと、やわらかく背中にかかるお湯。


あなたは驚きながらも、すぐにその手つきの優しさに安心し、目を閉じた。
しょう
しょう
……あなたちゃんの髪、すごく綺麗。銀色やね。絹みたい

初兎がそう言いながら、たっぷりと泡立てた石鹸を掌でくるくるとあなたの背中にのばす。


見えないけれど、どこか嬉しくて、あなたはほんの少しだけ笑った。


——初兎の手は、雪のように冷たいはずなのに、なぜだか心まであたたかくなるような、不思議な感触があった。
なんで初兎ちゃん溶けないんだよ、って?
雪女の話でも溶けてなかったから、大丈夫なんだよ
という設定にしました

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