初兎に抱きかかえられたまま、あなたはぽつぽつと泣きながら廊下を進んでいた。
その頬を伝う涙を、初兎は優しく手の甲で拭いながら、静かに言った。
あなたは無言のまま、小さくうなずいた。
背中には初兎の腕のひんやりとした温もり、そして歩くたびにわずかに揺れるリズム。
やがて、ふわりと木の香りと湯気の匂いが漂ってくる。
ちょっと癖のある明るい声がお風呂場に響いた。
初兎は軽く笑って、あなたを脱衣場におろす
と、布を柔らかくあなたの手に触れさせる。
あなたは戸惑いながらも、初兎の手の誘導を受けてゆっくりと衣を脱いでいく。
初兎もあなたの動きに合わせてゆっくりと手伝うが、けっして急かしたりはしなかった。
初兎の声に導かれ、あなたは慎重に一歩、また一歩と足を湯船へと入れる。
すぐに、ぬるめの湯が膝を包み込み、心地よい重さが身体にのしかかってくる。
ことん。桶に湯をすくう音のあと、
ざぶんと、やわらかく背中にかかるお湯。
あなたは驚きながらも、すぐにその手つきの優しさに安心し、目を閉じた。
初兎がそう言いながら、たっぷりと泡立てた石鹸を掌でくるくるとあなたの背中にのばす。
見えないけれど、どこか嬉しくて、あなたはほんの少しだけ笑った。
——初兎の手は、雪のように冷たいはずなのに、なぜだか心まであたたかくなるような、不思議な感触があった。
なんで初兎ちゃん溶けないんだよ、って?
雪女の話でも溶けてなかったから、大丈夫なんだよ
という設定にしました














編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。