第2話

1話
414
2026/02/21 11:37 更新
高校1年生の春。

その日は、予報外れの雨だった。

放課後の昇降口。
傘も差さずに和気藹々と話してふざける男子や
一つの傘に肩を寄せ合う女子グループを横目に、
私は立ち尽くしていた。

湿った空気と、アスファルトの匂い。

入学したばかりなのに、
新しい制服とローファーを濡らして汚すのが
嫌で、止みそうにない空をぼんやりと眺めていた。
橘 美月
橘 美月
( …走るしかない、か。 )
覚悟を決めて、カバンの持ち手を
握り直した、その時だった。
瀬戸山 陽向
瀬戸山 陽向
おい。…邪魔なんだけど。
すぐ後ろから、低くて不機嫌そうな声がした。
驚いて振り返ると、そこには背の高い男子生徒が立っていた。

顔は整っているけれど、眠そうというか、
どこか人を寄せ付けない冷めた瞳の男だった。
橘 美月
橘 美月
ぁ、ごめ……
彼は私を避けて通ろうとして、ふと足を止めた。
そのまま、面倒くさそうに自分の持っていた
ビニール傘を、私の方へ無造作に突き出した。
橘 美月
橘 美月
…え?
瀬戸山 陽向
瀬戸山 陽向
貸すから。早く行けよ。
橘 美月
橘 美月
え…いや、でも
瀬戸山 陽向
瀬戸山 陽向
俺は良いから。……家、すぐそこだし。
彼は私が受け取るのも待たず、
半ば強引に傘を私の手に預けた。
橘 美月
橘 美月
待って、これ……どうやって返せば…!!
瀬戸山 陽向
瀬戸山 陽向
明日。一組の教室。
……瀬戸山 陽向に返しに来た、って言えば分かる。
じゃあな。
橘 美月
橘 美月
え、あ、…私、三組の…!!
名乗ろうとしたけれど、彼はもう雨の中に飛び出していた。
首をすくめて、走って彼は駅の方へ向かっていった。
橘 美月
橘 美月
瀬戸山陽向……一組の…瀬戸山、くん……
私は、傘を打つ雨音を聞きながら、
その名前を小さく口の中で繰り返した。

これが、私と彼の1000日間の最初の1日目。
こんな雨の日に始まった関係が、
一生消えない傷跡になるなんて。

この時の私達は、まだ何も知らなかった。
翌朝。
昨日の雨が嘘みたいに晴れた空が、
かえって私の緊張を煽っていた。

私は、綺麗に畳んだビニール傘を抱えて
一組の教室のドアの前に立った。

勇気を出して教室の中を覗いてみると
彼は窓際の席で、友達に囲まれる事も無く
一人でスマホをいじっていた。
橘 美月
橘 美月
…あの、瀬戸山くん!!
瀬戸山 陽向
瀬戸山 陽向
……あ、お前
橘 美月
橘 美月
これ、昨日はありがとう。助かったよ。
傘を差し出すと、低い声で
「ああ」と短く返事をして、傘を受け取った。
橘 美月
橘 美月
ねぇ……濡れたでしょ、 昨日。
風邪引いてない?
瀬戸山 陽向
瀬戸山 陽向
別に。
橘 美月
橘 美月
でも、大雨だったし帰る時びしょ濡れだったから…
瀬戸山 陽向
瀬戸山 陽向
しつこい。もういいだろ。
……もう行けよ。
そう言って彼にぶっきらぼうに視線を逸らされた。
橘 美月
橘 美月
( せっかく傘返してお礼言いに来て心配までかけたのに…!! )
少しイラッとしたが、その怒りを本人にぶつけれる訳もなく。
橘 美月
橘 美月
じゃあね、勝手な人。
と、小さく毒づいて彼に背を向け
そそくさと教室から出て行った。

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