高校1年生の春。
その日は、予報外れの雨だった。
放課後の昇降口。
傘も差さずに和気藹々と話してふざける男子や
一つの傘に肩を寄せ合う女子グループを横目に、
私は立ち尽くしていた。
湿った空気と、アスファルトの匂い。
入学したばかりなのに、
新しい制服とローファーを濡らして汚すのが
嫌で、止みそうにない空をぼんやりと眺めていた。
覚悟を決めて、カバンの持ち手を
握り直した、その時だった。
すぐ後ろから、低くて不機嫌そうな声がした。
驚いて振り返ると、そこには背の高い男子生徒が立っていた。
顔は整っているけれど、眠そうというか、
どこか人を寄せ付けない冷めた瞳の男だった。
彼は私を避けて通ろうとして、ふと足を止めた。
そのまま、面倒くさそうに自分の持っていた
ビニール傘を、私の方へ無造作に突き出した。
彼は私が受け取るのも待たず、
半ば強引に傘を私の手に預けた。
名乗ろうとしたけれど、彼はもう雨の中に飛び出していた。
首を竦めて、走って彼は駅の方へ向かっていった。
私は、傘を打つ雨音を聞きながら、
その名前を小さく口の中で繰り返した。
これが、私と彼の1000日間の最初の1日目。
こんな雨の日に始まった関係が、
一生消えない傷跡になるなんて。
この時の私達は、まだ何も知らなかった。
翌朝。
昨日の雨が嘘みたいに晴れた空が、
かえって私の緊張を煽っていた。
私は、綺麗に畳んだビニール傘を抱えて
一組の教室のドアの前に立った。
勇気を出して教室の中を覗いてみると
彼は窓際の席で、友達に囲まれる事も無く
一人でスマホをいじっていた。
傘を差し出すと、低い声で
「ああ」と短く返事をして、傘を受け取った。
そう言って彼にぶっきらぼうに視線を逸らされた。
少しイラッとしたが、その怒りを本人にぶつけれる訳もなく。
と、小さく毒づいて彼に背を向け
そそくさと教室から出て行った。














編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。