沈黙が当たり前になった頃、
城の地下で、ひとつの玉が微かに音を立てた。
誰も気づかなかった。
六つの玉は揃い、輝きは完璧だったからだ。
だが、その中心に置かれた玉だけが、
夜ごと、わずかに震えていた。
それは、祈りの名残だった。
ホルミナ姫の眠る部屋。
鍵のかかった扉の向こうで、
彼女の胸は、ある日、ほんの一瞬だけ強く上下した。
声にならない音。
呼吸とも、ため息ともつかない揺れ。
夢を見ていた。
そこには神はいなかった。
光もなかった。
ただ、無数の声があった。
重なり合い、絡まり合い、
逃げ場を失わせるほどの“感謝”。
その中心で、幼い自分が立っていた。
――どうして、私はここにいるの?
問いは、誰にも届かない。
なぜなら、その世界では、
彼女は「祈りそのもの」だったから。
そう言った瞬間、
感謝の声が、初めてざわめいた。
押し潰される。
役目という名の手で。
そのときだった。
はっきりと、別の声がした。
低く、震えていて、
けれど確かに、人の声だった。
闇の向こうから、誰かが言う。
次の瞬間、
夢の世界に亀裂が走る。
感謝の声が悲鳴に変わり、
光が砕け、
彼女の視界は真っ白になった。
――――














編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!