オフィスの蛍光灯が夜の色に変わり、静まり返ったフロアにキーボードの音だけが響いていた。
「木村、大丈夫か?」
田中が肩越しに覗き込み、椅子を少し引いて隣に座る。
「え、あ、はい……ちょっと数字の整理が追いつかなくて」
私の手元の資料をちらりと見た田中は、軽く眉を上げて笑う。
「そうか。じゃあ、こっちの方法でまとめてみると早いぞ」
指先で画面を操作しながら、簡単に効率のいい整理方法を教えてくれる。
でも、隣にいるだけで胸の奥がドキドキして、画面に集中できない。
「……先輩、ありがとうございます」
「いや、別に。困ってる後輩を放っておけないだけだし」
その軽い口調に、思わず顔が赤くなる。
田中はそれに気づいたのか、微笑みながら軽く肩に触れる。
「……木村、ちゃんと顔赤くなってるぞ」
「な、なにそれ……!」
その言葉にまた心臓が跳ねる。
隣にいるだけで、からかわれているだけで、どうしてこんなにドキドキするんだろう。
「でも、頑張ってるな。偉いぞ」
真剣な眼差しでそう言われた瞬間、胸がぎゅっと熱くなる。
私の意識は、もう完全に田中先輩に集中していた――。
夜のオフィスに、二人だけの空気が静かに流れる。
この距離感が、少しずつ心を近づけていく予感がした。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。