第3話

3それは、妹として
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2026/01/05 06:31 更新
兄と外を歩くと、必ず視線を感じる。

「……また見られてる」

私が小声で言うと、兄は楽しそうに笑った。

「慣れなよ。俺、有名人だから」

「自覚ありすぎ」

今日は珍しく、二人で近所のコンビニまで出てきていた。
帽子とマスクで変装しているけれど、背の高さと雰囲気は隠しきれない。

「これ持って」

そう言って、兄は自然に私の手に自分のスマホを預ける。
昔からこうだった。
信頼されている証みたいで、少し誇らしい。

「ねえ、これ新しいアイス?」

「また甘いの?」

「いいじゃん」

そんなやり取りをしながら、並んで歩く。
ただそれだけなのに、胸があたたかくなる。

レジを終えて外に出たとき、
後ろから小さな声が聞こえた。

「……今の、菊池風磨じゃない?」

心臓が跳ねる。

兄は一瞬だけ足を止めて、すぐに何事もなかったように歩き出す。
私は反射的に、兄の服の裾を掴んでいた。

「大丈夫」

兄は小さくそう言って、私の手首を軽く握る。

「行こ」

その手は、迷いなくて、自然で、
まるで私を守るのが当たり前みたいだった。

少し早足で歩きながら、私は思う。
どうしてこんなに、近いんだろう。

家に帰ると、兄はすぐに帽子を脱いでソファに倒れ込んだ。

「ふー……」

「お疲れさま」

「一緒だと楽だな。気使わなくていいし」

また、そう言う。

「ねえ」

「なに?」

「今日さ、声かけられたらどうするつもりだった?」

「どうもしないよ。無視」

「そっか」

兄は少し間を置いてから、笑った。

「でもさ」

「?」

「変な噂とか出たら困るから」

一瞬、胸がざわつく。

「俺の隣にいるのが、お前でよかった」

……ずるい。

それは“妹として”の言葉なのに、
どうしてこんなにも、心に深く刺さるんだろう。

「誰かだったら、気使うしさ」

追い打ちみたいに言われて、私は笑うしかなかった。

「そりゃ、妹だし」

「だよな」

その一言で、線が引かれる。

私は安心していいのか、
それとも、少し傷つくべきなのか、わからなくなる。

兄は冷蔵庫からアイスを取り出して、私の隣に戻ってくる。

「半分こな」

「え、いいの?」

「一人で食べるの寂しいから」

子どもみたいな理由。
昔と何も変わらない。

並んでアイスを食べながら、私は思う。

兄は、私を大切にしてくれる。
守ってくれる。
一番近くに置いてくれる。

でもそれは全部、
“妹として”。

それ以上の意味を、
この人は一切、持っていない。

その事実が、少しだけ苦しくて、
でも同時に、離れがたいほど優しかった。

この距離が続くなら、
私はきっと、ずっとこの想いを隠し続ける。

笑いながら、
兄の一番近くで。

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