jh side
バラードの前奏が、静かに流れ出す。
ファイナルリスト全員が並ぶ。
照明は柔らかく、影が床に落ちる。
俺は胸の前で、そっと息を吸った。
隣にいるアンシンが少し笑う。
俺は頷く。でも、視線は前を向いたまま。
——見ない。
——今は、歌うだけ。
歌い出し。
一人、また一人と声が重なっていく。
俺の番が近づくにつれて、胸が少し苦しくなる。
自分に言い聞かせる。
サビに入る直前、
ほんの一瞬だけ、顔を上げてしまった。
客席。
暗闇の中、
確かにそこにいる人。
——あ。
あなただった。あなただ…っ。
喉が、一瞬だけ詰まる。
声には出さない。
でも、唇が動いた。
あなたは、驚いたように目を見開いてから、
すぐに、少し困ったように笑う。
小さく、口の形だけで。
俺は、はっきりと分かった。
——俺に言ってる。
胸の奥が、熱くなる。
自分のパート。
俺は、あなたから視線を逸らさないまま歌った。
声は震えない。
でも、まっすぐだった。
あなたは、思わず小さく息を吐く。
歌が進み、
最後のフレーズ。
全員の声が重なる。
俺は、最後の音を伸ばしながら、心の中で言う。
——聞こえてる?
——ここだよ。
音が消える。
静寂のあと、拍手。
俺は、軽く頭を下げてから、もう一度だけ客席にいるあなたを見る。
あなたは、両手を胸の前で握って、はっきり頷いた。
小さく、でも確かに。
俺は、思わず笑ってしまう。
声には出ないけれど、
口の動きで、そう答えた。
照明が落ちる。
その瞬間、俺は胸の奥で静かに思う。
——見つけてくれて、ありがとう。
——俺、ここまで来た。
あなたもまた、誰にも聞こえない声で呟く。
拍手の中で、
二人の視線だけが、最後まで繋がっていた。

♥️🎵様
スポットライトを当ててくださり
ありがとうございます泣泣
大変嬉しいです!
これからも応援よろしくお願いします🙇














編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。