「はぁっ、はぁっ…」
今日のことなんて考えないように、全力で走った。
無意識に走ってたけど、着いたのは家。
とりあえず、家の中に入り、リビングで私はうずくまった。
…逃げてきちゃった。
勇我に中庭のベンチでって、私が言ったのに…
私が逃げてきちゃった…。
私最低…
じわっ。
涙で視界が霞む。
勇我に…言えなかった…。
好きだよって。
「うぅっ…」
顔を上げると、カバンのチャックが開いていて、中の箱が見えた。
私はそれを取り出す。
勇我に、あげるはずだったチョコ。
もう用無し、か…。
私は包を開けて1粒口に入れた。
「にが…」
カカオが効いた苦いチョコ。
そりゃそうか、苦いのが好きな勇我のために作ったんだもん。
私の恋みたい。
そう思ったらまた涙出てきた。
「もうっ、全部食べてやる…っ」
もうひとつ、わたしはチョコをつまんだ。
そのとき、ガチャと音がしてリビングのドアが開く。
「え。」
ドキンッ。
ゆ、勇我…
焦ったような勇我の顔。
「バッカ、何食おうとしてんだよ!
オレんだろ!!」
え…っ?
そのまま勇我は私に近づき、私の腕を持ち上げてチョコを食べた。
ドキッ。
「…ゆ、勇我…?」
なに…急に…
「コレ、オレんだろ?
ちゃんと苦く作ってんじゃん。」
「それはっ…」
その通りですけどっ…
いきなりのこと過ぎて頭がついていかない。
「これオレに渡して、なんか言おうとしてたんじゃねぇの?
何逃げてんだよ。」
えっ…?
勇我を驚いた顔で見上げるといつもみたいに意地悪な、だけど少し優しい顔をしていた。
トクンッ。
胸が高鳴る。
「…ズルいよ。」
私は俯いて言った。
「あ?」
「私ばっかりじゃん…
…私が勇我に好きって言ったところで…」
惨め。
勇我には好きな人がいるのに。
告白を強制されるなんて…
涙をこらえながら勇我を見つめる。
「勇我は私のこと好きなんかじゃないくせに!」
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。