第28話

惨め
1,266
2018/02/05 12:49
「はぁっ、はぁっ…」


今日のことなんて考えないように、全力で走った。


無意識に走ってたけど、着いたのは家。


とりあえず、家の中に入り、リビングで私はうずくまった。


…逃げてきちゃった。


勇我に中庭のベンチでって、私が言ったのに…


私が逃げてきちゃった…。


私最低…


じわっ。


涙で視界が霞む。


勇我に…言えなかった…。


好きだよって。


「うぅっ…」


顔を上げると、カバンのチャックが開いていて、中の箱が見えた。


私はそれを取り出す。


勇我に、あげるはずだったチョコ。


もう用無し、か…。


私は包を開けて1粒口に入れた。


「にが…」


カカオが効いた苦いチョコ。


そりゃそうか、苦いのが好きな勇我のために作ったんだもん。


私の恋みたい。


そう思ったらまた涙出てきた。


「もうっ、全部食べてやる…っ」


もうひとつ、わたしはチョコをつまんだ。


そのとき、ガチャと音がしてリビングのドアが開く。


「え。」


ドキンッ。


ゆ、勇我…


焦ったような勇我の顔。


「バッカ、何食おうとしてんだよ!

オレんだろ!!」


え…っ?


そのまま勇我は私に近づき、私の腕を持ち上げてチョコを食べた。


ドキッ。


「…ゆ、勇我…?」


なに…急に…


「コレ、オレんだろ?

ちゃんと苦く作ってんじゃん。」


「それはっ…」


その通りですけどっ…


いきなりのこと過ぎて頭がついていかない。


「これオレに渡して、なんか言おうとしてたんじゃねぇの?

何逃げてんだよ。」


えっ…?


勇我を驚いた顔で見上げるといつもみたいに意地悪な、だけど少し優しい顔をしていた。


トクンッ。


胸が高鳴る。


「…ズルいよ。」


私は俯いて言った。


「あ?」


「私ばっかりじゃん…

…私が勇我に好きって言ったところで…」


惨め。


勇我には好きな人がいるのに。


告白を強制されるなんて…


涙をこらえながら勇我を見つめる。


「勇我は私のこと好きなんかじゃないくせに!」

プリ小説オーディオドラマ