あなたの下の名前side
照明の熱。身体の奥まで響く重低音。
ステージのすぐ向こうには、無数の観客。ペンライト。
その観客の視線の先には、Valkyrieの2人がいた。
舞台袖から見るステージは、客席から見る景色とは違っていた。
さっきまで楽屋で共に笑い合っていたはずなのに、スポットライトを浴びながら歌い、踊る彼らは、別世界の人のようだった。
彼らの歌に、踊りに、芸術に。
観客は皆、息を呑み、彼らに釘付けになっている。
彼らの目線でその場の雰囲気が変わる。
身体を動かせば空気が動く。
その姿は、どうしようもなく’’アイドル’’だった。
胸の奥がじわりと熱くなる。
私は、彼らの____みかくんの努力を、知っている。
誰もいない練習室で、1人時間を忘れ踊り続けていた姿も。
自分を責めてしまうことがあったことも。
1人で寂しくて、苦しそうにしていたことも。
斎宮さんの復活を信じて、ずっと戦い続けていたことも。
この日を待ち望んでいたことも。
今、彼はこんなにも堂々と光の中心に立っている。
彼は、以前の彼から確実に成長していた。
自分の力で輝ける人になっていた。
斎宮さんと並んで踊る彼の姿。
2人が視線を交わす。それだけで伝わるものがあるのだと分かる。
2人の動きはぴたりと重なり、呼吸まで揃っているみたいだった。
互いを信頼しているからこそできるステージ。
その空気感に、客席の熱もさらに高まっていく。
そして次の瞬間。
___みかくんの視線が、ふっとこちらへ向いた。
舞台袖。暗がりの中にいるはずの私を、彼は間違いなく見つけて。
ほんの一瞬だけ、確かに、目が合う。
彼は、少しだけ目を細めて笑った。
彼の笑顔は驚くほど柔らかくて。
そのたった一瞬で、
心臓が跳ねた。
彼の一瞬の視線が、目に、脳裏に、焼き付いて離れない。
どうしてこんなに苦しいのだろう。
どうしてこんなにも、目を離せないのだろう。
ステージの上で輝く彼が、眩しくて。
誇らしくて。
愛おしい。
__そこで、ようやく。気が付いてしまった。
その気持ちは、自覚してしまえば驚くほど静かに、すとんと胸に落ちてきた。
’’プロデューサー’’としての立場。
’’アイドル’’としての彼の未来。
そのどちらも大切にしたかった。
正直に言ってしまえば、「私は全てのアイドルに平等に接することが出来るのだ」という、自分なりにプロデューサーとしてのプライドもあった。
でもそれがどうしたことか、いつからかそんなものはなくなっていた。
私を信じて、いつでも頼ってくれたのは彼だった。
私が落ち込んでいた時に、傍で寄り添い、認めてくれていたのも彼だった。
私に真っ直ぐに想いを伝えてくれたのも、彼だった。
…私を優しく抱きしめてくれるのも、彼だった。
彼が私を求めてくれているのと同時に、私も無意識のうちに彼を求めていたのだ。
きっとずっと前から気付いていたはずだった。でも、気付かない振りをしていた。
ずっと誤魔化し続けてきたのだ。
彼からの好意を、拒むこともなく、受け入れることもなく。
彼への好意に気づいてしまえば、認めてしまえば。
もう、誤魔化せなかった。
まるで堰を切ったみたいに、胸の奥から溢れてくる。
彼が織りなす芸術に、胸が熱くなる。
彼が歌うたびに、涙が出そうになる。
彼の全部が、どうしようもなく尊く、愛おしかった。
こんなふうに誰かを見つめることなんて、きっと後にも先にもないだろう。
胸がぎゅうっと締め付けられる。
苦しいのに、一瞬も見逃したくない。瞬きすら惜しい。
もっともっと、見ていたい。
私は、彼に。
’’影片みか’’に。
アイドルとしても、1人の人間としても、異性としても。
完全に心を奪われてしまったのだ。
ステージの上で光を浴びる彼は、あまりにも美しくて。
私はただ、呆然とその姿を見つめ続けることしか出来なかった。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!