第44話

新しい世界
81
2026/06/07 03:47 更新
あなたの下の名前side

照明の熱。身体の奥まで響く重低音。

ステージのすぐ向こうには、無数の観客。ペンライト。


その観客の視線の先には、Valkyrieの2人がいた。



舞台袖から見るステージは、客席から見る景色とは違っていた。
あなた
(__彼らのプロデューサーである自分だけが立てる、特等席だ。)

さっきまで楽屋で共に笑い合っていたはずなのに、スポットライトを浴びながら歌い、踊る彼らは、別世界の人のようだった。


彼らの歌に、踊りに、芸術に。

観客は皆、息を呑み、彼らに釘付けになっている。


彼らの目線でその場の雰囲気が変わる。

身体を動かせば空気が動く。


その姿は、どうしようもなく’’アイドル’’だった。
あなた
(……すごい。)

胸の奥がじわりと熱くなる。


私は、彼らの____みかくんの努力を、知っている。


誰もいない練習室で、1人時間を忘れ踊り続けていた姿も。

自分を責めてしまうことがあったことも。

1人で寂しくて、苦しそうにしていたことも。

斎宮さんの復活を信じて、ずっと戦い続けていたことも。

この日を待ち望んでいたことも。




今、彼はこんなにも堂々と光の中心に立っている。
あなた
(…間違いなく、一番星だ。)

彼は、以前の彼から確実に成長していた。

自分の力で輝ける人になっていた。


斎宮さんと並んで踊る彼の姿。

2人が視線を交わす。それだけで伝わるものがあるのだと分かる。

2人の動きはぴたりと重なり、呼吸まで揃っているみたいだった。

互いを信頼しているからこそできるステージ。

その空気感に、客席の熱もさらに高まっていく。
あなた
……かっこいい。
あなた
(…目が、離せない。)
そして次の瞬間。

___みかくんの視線が、ふっとこちらへ向いた。



舞台袖。暗がりの中にいるはずの私を、彼は間違いなく見つけて。

ほんの一瞬だけ、確かに、目が合う。

彼は、少しだけ目を細めて笑った。

彼の笑顔は驚くほど柔らかくて。



そのたった一瞬で、

心臓が跳ねた。
あなた
(__こんな世界は、知らない。)

彼の一瞬の視線が、目に、脳裏に、焼き付いて離れない。


どうしてこんなに苦しいのだろう。

どうしてこんなにも、目を離せないのだろう。


ステージの上で輝く彼が、眩しくて。

誇らしくて。

愛おしい。




__そこで、ようやく。気が付いてしまった。
あなた
(__ああ、私)
あなた
(みかくんのことが、好きなんだ。)

その気持ちは、自覚してしまえば驚くほど静かに、すとんと胸に落ちてきた。


’’プロデューサー’’としての立場。

’’アイドル’’としての彼の未来。

そのどちらも大切にしたかった。


正直に言ってしまえば、「私は全てのアイドルに平等に接することが出来るのだ」という、自分なりにプロデューサーとしてのプライドもあった。

でもそれがどうしたことか、いつからかそんなもの平等はなくなっていた。




私を信じて、いつでも頼ってくれたのは彼だった。

私が落ち込んでいた時に、傍で寄り添い、認めてくれていたのも彼だった。

私に真っ直ぐに想いを伝えてくれたのも、彼だった。

…私を優しく抱きしめてくれるのも、彼だった。

彼が私を求めてくれているのと同時に、私も無意識のうちに彼を求めていたのだ。



きっとずっと前から気付いていたはずだった。でも、気付かない振りをしていた。

ずっと誤魔化し続けてきたのだ。

彼からの好意を、拒むこともなく、受け入れることもなく。
あなた
(…私って、ずるいな。)

彼への好意に気づいてしまえば、認めてしまえば。

もう、誤魔化せなかった。

まるで堰を切ったみたいに、胸の奥から溢れてくる。

彼が織りなす芸術に、胸が熱くなる。
あなた
(…好き。)

彼が歌うたびに、涙が出そうになる。
あなた
(好き。)

彼の全部が、どうしようもなく尊く、愛おしかった。
あなた
(みかくんが、好き。)

こんなふうに誰かを見つめることなんて、きっと後にも先にもないだろう。


胸がぎゅうっと締め付けられる。

苦しいのに、一瞬も見逃したくない。瞬きすら惜しい。

もっともっと、見ていたい。




私は、彼に。

’’影片みか’’に。

アイドルとしても、1人の人間としても、異性としても。


完全に心を奪われてしまったのだ。





ステージの上で光を浴びる彼は、あまりにも美しくて。

私はただ、呆然とその姿を見つめ続けることしか出来なかった。

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