第192話

過去編〜出会い〜
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2023/01/20 10:00




この街に再び戻り、中学校に入学して1ヶ月が過ぎた。



幸か不幸か、通っていた小学校の学区と別のアパートにお母さんは住んでいたため、中学校に知り合いはいなかった。







2年ぶりの宮城、2年ぶりの母親との日々




「お母さん!」


「久しぶり。大きくなったわね…」





久しぶりに会ったお母さんは、以前よりも痩せていながらも、私を見るとふわっと嬉しそうに笑ってくれた。




その笑顔は昔に亡くなった父親の隣で私に笑いかけてくれた、あの慈愛で溢れる大好きな笑顔だった。







「おかえり。こんなお母さんなのに帰ってきてくれて…本当にありがとう」




離れていた分、昔みたいに笑い合えると思っていた。


大好きなお母さんの傍から今度こそ離れまいと、ぎゅっと母の冷たく薄い手のひらを握った。





視線を上げれば、幸せそうにお母さんが私に微笑みかけていた。



















「はぁ………」



帰りたくない、と弱々しく呟いた声は、ため息と共に春の夜空に溶けて消えていった。



公園のベンチに1人座り込み、自販機でおもむろに買ったココアをこくりと一口飲む。




見下ろした胸元にたたずむスカーフの不格好な結び目に目を背ける。






『そっか、初めてのセーラー服だから結び方わかんないよね。ちょっと待ってて……』




そう言っていい子にじっとしたままの私の胸元に手を伸ばし、アンバランスな結び目をするりと解き、魔法のようにあっという間に綺麗なスカーフに生まれ変わる。





『ちゃんと自分で結べるようになるのよ?』



その言葉に頷かなかったら、もっと私を構ってくれたのだろうか。










中学校に入学してから1ヶ月。


2年ぶりの母との暮らしは、寂しさが付きまとう孤独な時間の方が圧倒的に多かった。






お父さんが亡くなって、女手一つで子供を育てることが大変なのは知っている。



でもそれだけじゃなくて。


2人の生活の中で、お母さんが私に何かを隠すような場面が多く散らばっていた。








“寂しい”





1人になると、お父さんとお母さんと過ごした懐かしい日々を思い出す。



そしてもう1つ、同じように寂しさに駆られた幼き頃の日を思い出す。





毛布のぬくもりに包んでくれた優しさ


耳元でかわした子供らしい無謀な約束





「英くん……」




何をするにもずっと一緒で甘えてばかりだった幼なじみに会いたくて、


でも約束を破った罪悪感から合わせる顔がなかった。








なんで昔みたいな日々に戻れないの?


なんで私を1人にするなら宮城に戻したの?




なんで……私には何も言ってくれないの…?












震えた指からココアの缶がこぼれ落ち、中身を吐き出すように黒が地面をじわじわと侵食していく。




それはまるで今の私の心の中のよう。



優しいあの日々の胸に広がっていた幸せを求めてばかりいた私は、いつの間にか寂しさと苦しさの黒い海に溺れて、1人もがいているようだった。












そんな時、じわじわと地面に染み渡っていたココアの侵食がゆっくりと止まる。



気づけば落ちていた缶はなくなっていて、公園の灯りによって成された人影が私を覆うように重なっていた。








「大丈夫?……な、わけないよな」





ぼんやりと横顔を照らされ、整った顔立ちに所々影を落としている。




気遣うようにそっと話しかけられた声


差し出されたココアの缶はすっかり冷えていて、空っぽで軽かった。






「落としもの」



「……ありがとう」









それが、堅治との出会いだった。




















自動販売機の前で、迷うことなくボタンに手を伸ばす彼の後ろ姿をぼーっと眺める。




戻ってきた彼は少し躊躇った後、私の隣にわずかな間を空けて腰を下ろした。









二口「お前さ、これ飲んだことある?めっちゃ美味いんだよな〜」








明らかにその声は私に向けられていたけど、大きな独り言だと思ってスルーする。





実際、彼は誤魔化すように「いっつもコンビニで買ってるけど、自販機で見たのは初めてだからさ。ラッキー」と呟いてすっかり日の落ちた空を見上げていた。











あなた「……なんで」


二口「ん?」




あなた「なんで、私なんかに構うの。知らない赤の他人でしょ?ほっとけばいいのに…」










いくら知り合いでもない相手といえど、普段なら絶対言わないような失礼な言葉使いの私は自己嫌悪に陥る。






「お前、ひねくれすぎ」と軽く笑われ、まさに考えていたことを指摘され恥ずかしいようで、彼の軽口が私の心をふっと楽にしてくれたのも事実だった。












二口「こんな暗いのに、女子1人置いてった後で何かあったら気分悪いだろ」









それは彼の本心なのか、はたまた私に気を遣って自分本位な発言をしたのか、そこまで読み取れるほど私は目の前の男子を知らなかった。







それでも、向けられた言葉が、声が、不器用ながらに優しさを纏っていることだけはそっと伝わってくる。




でも、その優しさを素直に上手く受け取りきれない自分がいて、私はどうしたら正解なのかわからなかった。











二口「何があったかは知らねーけど、口に出したらいくらかスッキリするんじゃね?」






俯いていた顔を上げると、綺麗な瞳がまっすぐに私を捉えていることに気づく。








二口「知らない赤の他人なんだから、何言ったって問題ないわけだし。」









「ほらほら、さっさと吐いた方が楽になるぞ〜」と冗談めかして笑いかける彼を見ていると、気が抜けて口角がほんの少し緩んだ。











普段の私だったら、初対面の人にここまで心を揺さぶられることになんてならなかっただろう。





でも、彼の優しさを素直に受け取ってみたいと、一度きりの他人になら弱さも見せたっていいだろうと、そんな甘えが頭の中にこびりついてしまったから。











あなた「…聞き流してもらって大丈夫なので」









気づけば、私の口からぽつりぽつりと、胸の内につかえていた蟠りがこぼれていた。

















……………………………!作者より!…………………………






新年になって半月ほど。



開けすぎましておめでとうございます!すみませんっ!!😭💦





久しぶりの更新になりましたが、今話から4話ほど二口との過去編が始まります!







思わぬ再会を果たした2人に秘められた過去とは……




ぜひ次話もチェックしてくださいね✨









そしてここでお知らせです!





いつも皆さんのおかげて支えられているこの作品、
『いい子って、大変なんだね……お兄ちゃん。』ですが…



目安として残り100話以内で完結とさせていただきたいと思います。




時期的にいうと、ちょうど連載を始めた5月から、8月までの間には完結させたいと考えています!







私自身、今後のために忙しくなっていくので、夏までにプリ小説での活動に区切りをつけたいと思い、この場で宣言させていただきました。(1年の計は元旦にありといいますし…)






この物語も長いこと書き始めてもう2年。(の割にサボりもあって全然進んでいないのは大変申し訳ないです…)





本編の最後は、春高予選決勝戦頃を予定していますので、年明けの展開は現時点ではないと思います。



推しを心待ちにしていた読者の皆様には心苦しいですが、今後ともマイペースな作者をどうぞ暖かい目で見守っていただければ嬉しいです🥰









つまりは更新ペース上がる!(はず!)だから、次話もお楽しみに〜👋ということで!!笑










p.s.)200話記念のクリスマス番外編は、時期的にアウトなのでバレンタイン番外編に作者の独断で変更させて頂きます!ほんとにごめんなさい!!😭












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