スタジオの片隅
本番のレッスンが終わり、
みんながぞろぞろと控室へ戻っていく中――
あなたは、誰にも気づかれないように、
静かにピアノの前に座った。
そっと置かれた譜面。
『INTO THE LIGHT 』
かつて何度も歌った、私の大好きなバラード
声は、
まだきっと不完全で、荒くて、掠れてる
でも……それでも、少しだけ前に進みたい。
そう思えたのは、
あの夜、臣さんが全部受け止めてくれたから
“大丈夫。お前は、ちゃんと前に進んでるよ”
あの声が、心に残ってる
ゆっくりと呼吸を整え、喉を開いた
震える声。
高音は不安定で、ところどころ詰まってしまう
でも、ちゃんと“言葉”になっていた
その時だった。
その声に、ドキッとして声がピタリと止まった
振り返ると、そこには臣さんがいた。
いつからそこにいたのかわからない
でも、表情は優しくて――
私を責めるものなんて、どこにもなかった
臣さんがゆっくり近づいてきて、ピアノの隣に腰を下ろす
その一言で、
緊張していた心がフッと軽くなった
私は、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた
掠れても、
途切れても、
ちゃんと“誰かに届いた”ってわかるその感覚――
それだけで……また、歌いたくなった
臣さんが楽しそうに、意地悪そうな笑みを浮かべた
ようやく出た笑顔は、
ほんのり涙まじりだったけど、
その目はまっすぐ前を見ていた
――この声は、まだ戻りきってはいないけど
――でも、少しずつ“音楽”とまた、つながっていける
“そう信じられる、
小さな小さな、奇跡のような時間だった”














編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!