第112話

episode.111
383
2025/10/05 11:00 更新
スタジオの片隅




本番のレッスンが終わり、


みんながぞろぞろと控室へ戻っていく中――




あなたは、誰にも気づかれないように、

静かにピアノの前に座った。




そっと置かれた譜面。


『INTO THE LIGHT 』




かつて何度も歌った、私の大好きなバラード
(なまえ)
あなた
(…..歌ってみよう、今の声で)

声は、

まだきっと不完全で、荒くて、掠れてる



でも……それでも、少しだけ前に進みたい。


そう思えたのは、

あの夜、臣さんが全部受け止めてくれたから

“大丈夫。お前は、ちゃんと前に進んでるよ”


あの声が、心に残ってる




ゆっくりと呼吸を整え、喉を開いた


(なまえ)
あなた
……君を包む、光になって……

震える声。

高音は不安定で、ところどころ詰まってしまう



でも、ちゃんと“言葉”になっていた

(なまえ)
あなた
どんな時も、優しく、抱きしめたい……

(なまえ)
あなた
ハァ.....ハァ....





その時だった。
おみ
…..あなた?

その声に、ドキッとして声がピタリと止まった


振り返ると、そこには臣さんがいた。

いつからそこにいたのかわからない



でも、表情は優しくて――

私を責めるものなんて、どこにもなかった

(なまえ)
あなた
ご、ごめんなさい、勝手に….
おみ
謝んないでよ

臣さんがゆっくり近づいてきて、ピアノの隣に腰を下ろす
おみ
…..歌ってくれて、ありがとう
(なまえ)
あなた
.....っ

その一言で、

緊張していた心がフッと軽くなった
(なまえ)
あなた
…でもまだ全然、ちゃんと歌えなくて……
(なまえ)
あなた
腹筋なくなってるから....息続かないし....
おみ
うん、そうだね
おみ
でもさ、たった数週間前は、“声が出ない”って泣いてたじゃん?
(なまえ)
あなた
......
おみ
今は、ちゃんと届いたよ。俺のとこまで


私は、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた


掠れても、

途切れても、

ちゃんと“誰かに届いた”ってわかるその感覚――



それだけで……また、歌いたくなった

おみ
じゃあさ、今度一緒に歌おうよ
(なまえ)
あなた
...え?

臣さんが楽しそうに、意地悪そうな笑みを浮かべた
おみ
俺も声、整えとくから。あなたに負けないように
(なまえ)
あなた
....ふふ🤭負けないですよ?
 

ようやく出た笑顔は、

ほんのり涙まじりだったけど、


その目はまっすぐ前を見ていた




――この声は、まだ戻りきってはいないけど



――でも、少しずつ“音楽”とまた、つながっていける



“そう信じられる、

小さな小さな、奇跡のような時間だった”

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