僕はただ行ってしまったバスを眺めて突っ立ていた。同時に目からは大粒の涙が溢れた。
もう会えないんだ、ジェノに。
「ジェミナ、」
優しく僕の背中を摩ってくれたのはマクヒョンとロンジュンだ。このふたりが居てくれるのが唯一の救いだ。またそのふたりの優しさに触れてしまえば涙は止まらくなる、何度も僕の肩を震わせた。
「大丈夫?」
背後から男の人の声が聞こえた。三人で後ろを振り向けば若くてスラっとした男性が立っていた。
「君たちを保護することになってるんだ」
突然の事で僕たちは頭が真っ白だった。見知らぬ人に保護されるなんて、驚いた拍子に涙は止まってしまった。その日の出来事は幾ら何でも情報量が多過ぎた。頭がパンクしそうになる。
「僕はドヨン、よろしく」
3人の前に差し出されたのは見知らぬ人の手、握手を求めているのだ。でも3人ともその手を握ることは無かった。怖くて堪らなかったから。
「大丈夫、そんな怖い顔しないで君たちのことは僕がちゃんと責任を持って保護するよ」
ドヨンと名乗った男は僕らに笑顔を見せた。それはぎこちなく、無理に作ったものだった。
今は嫌でもこの人に頼るしかないんだ。そんな覚悟を決めた。ドヨンさんが着いておいでと足を進めた。僕らもその後を追うように駆け足で着いて行った。数分歩けばドヨンさんはある建物の前で立ち止まった。
「ここが今日から君たちの家になるよ」
施設ほどでは無いがとても大きい家だった。僕らはただその家を見上げた。ここが僕らの家になる。
「僕以外にもう1人、中に居るから挨拶しに行こう」
ドヨンさんがそう言って、家の中に入っていった。僕ら3人も大人しく中に入った。
中に入れば施設よりとても綺麗な部屋が広がっていた。大きいソファにひとりの男が座っていた。その男は僕らを見てすぐ立ち上がった。
「みんな、挨拶できる?」
ドヨンさんは心配そうに僕らを見つめた。そして一番最初に口を開いたのはマクヒョンだった。
「マークです」
それに続いて小さな声でロンジュンが挨拶をした。
「ロンジュンです、」
次は僕の番だ、でも怖くて口が開かない。名前を言うだけなのに唇が震えて何も言えないんだ。皆が僕を見てる。早く言わなきゃ、早く言うんだ。心の中で自分を支配しているのに口は一向に動かない。
「彼はジェミンです」
ロンジュンが僕の代わりに言った。僕を気遣ってくれたんだ。何も言えなかった自分が情けなかった。
「ジェミンは仲間と離れてしまったから、今は理解してください」
マクヒョンが付け加えて言った。またふたりに救われてしまった。結局僕は一言も喋れなかった。そんな自分が悔しかったけれど、今はこのふたりに感謝しなければならない。
「俺はジェヒョン、3人ともこれからよろしくね」
彼は僕らに笑顔を向けた。それじゃあ と言ってドヨンさんは僕らを連れて二階に上がった。
「君たちの部屋はここになるよ、各部屋にひとりずつだからね」
それからひとりずつ各部屋に案内され、部屋に入った。ひとりの部屋にしてはとても広かった。施設で過ごしていた時のあの狭い空間とは比べ物にはならないけど、僕は施設の部屋の方が好きだ。ジェノと過ごした大切な部屋だから。
「君の部屋だから好きに使っていいよ、今日は休みたいだろうし、何かあったら下にいるから」
そう言ってドヨンさんは下に降りていった。僕はすぐ部屋を出た。部屋を出るとロンジュンも同じ事を思ったのか部屋の前で立っていた。僕とロンジュンはふたりでマクヒョンの部屋に入った。
「..おいで」
マクヒョンがそう言うと僕とロンジュンは思いっきりマクヒョンに抱き着いた。
「僕がお前たちを守る」
マクヒョンがか細い声で言った。僕とロンジュンはそれを聞いてまた涙を流した。ヒョンも泣くのを我慢して泣いてる僕らを必死に撫でてくれた。
大泣きした僕らはやっと落ち着いてその後は涙を流さなかった。マクヒョンの部屋で3人が座って円になり話をした。話をしているうちにロンジュンは泣き疲れてしまったのか僕の膝を枕にして寝てしまった。そんなロンジュンの頭を優しく撫でた。
「なぁ、ジェミナ」
マクヒョンはロンジュンが寝たことを確認して僕に声をかけた。
「どうしたの?」
「いや、大丈夫かなって..」
ヒョンは聞いてはいけなかったかなと少し気まづそうにした。
「もう会えないのかな、ジェノに」
「会えるよ、僕らは自由になったから」
マクヒョンが真剣に僕の顔を見ていた。言われてみれば僕らはあの施設から開放されたんだ。でもジェノが居ないなら意味が無い。ふたりで外を見る約束をしたのにこんな形になってしまうことも想像していなかった。
「自由でもジェノが居ないんじゃ意味が無いよ..」
「僕らがいるよ、ジェノが居ない間は僕らがジェミナを支えるから」
マクヒョンは優しい声で言った。またふたりに迷惑をかけてしまうと思う申し訳なく思った。
「ううん、僕がもっと大人になるよ」
「何かあったら僕らがついてる」
マクヒョンは僕の手をそっと握った。
すると握られた僕の手にもうひとつの手が重なった。
「ロンジュニ?」
「僕を仲間外れにしないで..」
さっきまで寝ていたロンジュンが眠たそうに目を擦りながら言った。マクヒョンはそんなロンジュンを見て微笑んだ。
「はぁ、あいつら今何してんだろ」
マクヒョンは高い天井を見上げた。
口うるさいヘチャンも居なくてこの空間はとても静かだし、そんなヘチャンに従順なチソンも居なくて、チソンに毎日くっついていたチョンロも、頭が良くてずる賢いテンヒョンも、もうここには居ない。あの安心感がある施設も、仲間も居ない。
でも今一番会いたいのはジェノだ。あの温もりにまた触れたい。でも触れる事はできない。いつも見ていたあの優しい笑顔も見ることが出来なくなってしまったんだ。そう考えてしまえばまた悲しみが僕を襲った。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!