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〈東雲家 玄関にて〉
今日帰ることは絵名のお母さんに伝えてあって、ありがたいことに私の家へ電話してくれた。
彰人は今、大事なイベントがあって席を外せなかったらしい。
少し寂しいけど、絵名が送ってくれるから十分だ。
そういうと絵名は素早く階段を駆け上がり、何かを取りに部屋へ戻った。
…いや、ここまで気遣ってくれるなんて、思わないじゃん。
やめてよ。
帰りたくなくなるじゃん…
え、私お邪魔しちゃったのにお土産とか、なんかそういうの一切ないんだけど。
失礼にも程があるな…
そう思ってると、絵名が階段を降りる音がして、私の前に来た。

手首に付けられたのは、淡い水色の花がついている可愛いブレスレットだった。
あ、そうだった。
これも伝えないとな。
あれ。何も喋んなくなった。
…何か地雷、踏んじゃった…??
と思ってると…
空が遠くの地平線まで澄み渡って広がっている。
喉はカラカラで、頭もぼーとしていて。
でも、なぜか心地いい。
意味がわからないよね。
うん、私も意味がわからない。
誰もいないエモい道を、ただただ1人で黙々と進む。
絵名がくれた可愛いブレスレットを眺めながら。
なんで思ってると、すぐ家の前に着いてしまった。
見覚えのある我が家がなぜか、受験の試験会場のような圧があった。
おそるおそるドアノブに手をかける。
ドアを開けるだけなんて、お化け屋敷に比べればちょちょいのちょいよ!!!!
声がした方に振り向く。
そうすると_____
どうしよう。
うまく話せない。
呂律が回らない。
リハーサルとしてセリフをたくさん叩き込んだ頭が真っ白になった。
兄さんは驚いた表情をしたあと、私の近くへゆっくりと近づき、
ギュッ
ハグされた。
家族にハグされただけなのに。
スキンシップされただけなのに。
顔が熱くなるのを感じ取った。
サッ
私の言葉を聞いて、さっと兄さんは私から離れた。
…なんだか、ちょっと複雑だな。
いやよくない。
恥ずかしすぎる。死。
兄さんまで顔を手で覆って俯いた。
あ、そっちも恥ずかしかったんだ!!!!
ガチャっと、兄さんがドアを開ける。
そして、「どうぞ、お入りください」と言わんばかりの表情でこっちをみた。
私は素直に入った。
だが、玄関に入った途端、私の足は動かなくなった。
…なぜかって?
あはは。見ればわかるよね?
…、終わったなこれ。
ギュッ
離してって言ってるのにお母さんは離してくれない。
力を弱めただけだった。
私は思わず兄さんの顔をもう一度見た。
優しいけど嘘は全て見透かすような、黄色の瞳。
普段はそんなに気にしていなかったけど、なぜか今だけは怖くて見れなかった。
…怒って、る、?
〈リビング〉
……言うのか?兄さんがいるこの前で?
トラウマを?
…言えるわけがない。もう、兄さんも自分の心も傷つけさせたくない。
でも、
でも。
私の家族はこんなにも待ってくれてたんだ。
仲直りするのも、今がチャンスなのでは?
…いや、自分にそんな資格は…
ああどうしよ!考えがまとまらない。
何から話せばいいのかわからない。
本当にごめんなさい!!!!!🙇♀️
















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!