[大森元貴視点]
それは僕らがカラオケで隠れデートをしている時だった。
こういう個室で防音が聞いているところは、やはり代表的なのはカラオケしか思いつかず
まぁお互い歌う人だし、けど歌いすぎたらバレちゃうし。
ということで、ゆっくり話したい時はカラオケをよく使っている。
そこで最近のお互いの近況報告をよくするのだが……。
レイバはこれまで、一度も男女のデュエット曲を出したことが無かった。
どのアルバムを聞いても、耳に入り込むのはkomoriの歌声。
ファンとしても、彼氏としても、なんとなくそれに喜びを感じていたんだけど
まさか、新曲に別の人の声が入ってくるとは。
それに"男"。
ファンとしてはかなり嬉しい。
「レイバが!?ガチで!?うおお!!!」的な。
でも彼氏としては……少し微妙だ。
すごくワクワクした表情のあなたに、僕は微妙な笑顔しか返せない。
耐えろ、耐えろ大森元貴。
けれどバレるのは意外と早かった。
考え込むあなた。
そうだよな、いきなりこんなことを言われても困る。
僕が「ごめんね」と言おうとすると、あなたは口を開いた。
あなたはなんの疑問も抱かない、逆に「なぜ?」というような顔を僕に見せる。
今頃「やば」みたいな顔をするあなたに、いつもの愛らしさを感じる。
あなたの口からこぼれた言葉に、僕は驚きを隠せなかった。
顔を見てみれば、心底微妙そうな、そして少々嫉妬の混じった表情だった。
「ごめんね、醜いとこ見せて」
と、顔を隠してそういうあなた。
嫉妬してる自分に嫌気が差しているんだろう。
僕にだって分かる。
あなたちゃんが気持ちを出してくれた時よりも遥かに強く、その言葉をぶつける。
傷つけるとかじゃない。
僕の醜い姿だ。
彼女が頑張って見せてくれたんだ。
僕も同じものを、いや、それ以上を見せないと。
君の一部になりたいと、本気で思っているんだから。
そうやって笑うあなたちゃんを見て、僕も微笑む。
せめてカラオケででも歌おうよ。
どっちも力強くたっていいじゃないか。
お互い想いが強いのは、もう知ってることなんだし。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!