第2話

第一話
513
2025/04/10 15:34 更新
LAN
ちょ…い、いるま、大丈夫…?
おれが声をかけてもいるまは意識を失ってしまい、返答を求めても雨の落ちる音が響くだけ。おれに凭れかかったまま、気を失ってしまったいるまの体は酷く冷えていた。当然だ、こんな土砂降りの中雨に打たれていたんだから。
おれはぎゅ、といるまの体を抱き締めるとそのまま家の中へいるまを連れて行った。本当なら今すぐにでもお風呂に入れて温めてあげたいけど、いるまの背中から出ている…恐らく、触手?にどう触れていいか分からない為、なるべく触れないようにいるまの服を着替えさせて、暖房と毛布でいるまの体を温めた。
いるまが目を覚ますまで、おれはジッといるまを見つめていた。…いるま。いるまだ。間違いなくいるま本人だ。いるまが、帰ってきた。いるまは、生きてた。
LAN
…いるま。
気絶してしまったいるまの頬を撫でる。そのままそっといるまの胸元に手を当てる。…動いてる。うん、いるまは生きてる。
LAN
…良かった。
自然と口から零れ落ちていた。
LAN
いるま…生きてて、良かった…。
涙が止まらなかった。生きてたんだ、いるまはちゃんと生きてた。良かった、本当に…。
いるま
…ら、ん…。
いるまの声がしてハッと顔を上げる。
LAN
いるま!?大丈夫!?
いるま
…LAN、ごめん、な。俺…。
LAN
喋るの辛くない?無理して喋らなくてもいいよ、しっかり回復してからでも…。
捲し立てるように言葉を紡ぐおれを片手で制して、いるまは起き上がる。
いるま
体調悪いわけじゃねぇから大丈夫…。…それで、これ、見られちゃったよな。
いるまはそう言って背中から生えている触手を指差す。
LAN
う、うん…。それ、何…?
いるま
…順を追って話すよ。とりあえずこれ、仕舞わないとな。
え、と思っているといるまの背中にしゅるしゅるの仕舞われていく触手。驚きで声が出せずにいると、いるまがぽつりぽつりと語りだした。
いるま
一ヶ月くらい前かな…。仕事まで時間あるからって散歩してたんだよ。特別なことはしてない…と思う。急に、後ろから変な薬品みたいなの嗅がされて…次に目が覚めたら全身を拘束されてた。床も壁も天井も真っ白な部屋にいて…。なんとか拘束を解けないかと試してみたけど、ビクともしなかった。暫くそのままジッとしていると、覆面を被った男達が来て…わけの分からない会話した後、俺の体に激痛がはしった。…今まで、感じたことがないくらいの痛みだった。
いるまの声は、体は、震えていた。おれには分からないけど、きっと想像を絶する痛みなんだろう。
いるま
…それから、毎日毎日そんな生活を続けさせられた。食事や風呂は職員らしき男達に世話されていたけど、拘束をとかれることも、激痛がはしる謎の実験がやめられることもなかった。気が狂いそうだったよ。死んだ方がマシなんじゃないかってなんども思わされた。…それでも…。
一旦そこで言葉を区切ると、いるまはおれと目を合わせた。
いるま
…シクフォニの皆が、LANが居るから…生きなきゃ、って、思えた。
LAN
いるま…。
いるま
…それで、少し前に俺に触手が植え付けられた。どうやら人間の体に触手を適合させる実験を行っていたらしい。運が良いのか悪いのか、俺の体に上手く触手が適合して…俺の帰りたいって想いに反応して、触手が暴れ出した。プツッて意識が途切れるような感覚に襲われて、意識が覚醒したら職員が全員倒れてて、拘束具も壊れていた。だから、急いで逃げてきたんだけど…。無我夢中で走ってたら見慣れた街の景色が見えて…家まで戻ろうと思ったんだけど、体が怠くて仕方なくて…LANの家が目に入ったから…。ごめん。
LAN
謝らなくていいよ!いるまが謝る必要なんてない!!…ちょっと、驚いたけど…本当の話、なんだよね。
確認するように呟くと、いるまは頷いた。
いるま
ああ…。こんな現実味のない話、信じてもらえないのはわかる。でも、LANには触手を見られたし…何より、LANには信じてほしかった。
おれの目を見つめるいるまは、悲しげな表情をしていた。いるまの言葉なら何の根拠がなくても信じるのに。
LAN
その…触手、は大丈夫なの…?
いるま
ああ…。今のところは、な。基本的には俺の意志で出したり仕舞ったりできるんだけど…俺の思考とリンクしてるらしくて、俺の感情が高ぶると暴走しちゃうみたいで…。…ごめん、俺、もう人間じゃないんだ…。化け物なんだ…。ごめん、気持ち悪いよな、怖いよな、ごめんな…。
弱々しく呟くいるまの目から涙が溢れていた。おれはそんないるまを見ていられず、いるまを抱き締めた。
いるま
LAN…?
LAN
…気持ち悪くなんてない。怖くなんてない。いるまはいるまだよ。人間じゃなくても、おれはいるまが好き…。
いるま
っ…う…ごめん…。ありがとう、LAN…。
自信なさげにいるまの手がおれの背中に回ってきた。二人で日が昇るまで泣き続けた。

プリ小説オーディオドラマ