◆ JAEHYUN side
22:00
事務所の作業室で軽食を食べながら次のカムバに向けての作詞作業。
いつもなら自分の生活の中の好きな時間に入るのだが、今の俺は憂鬱な気持ちのどん底にいた。
初めてきみを見たのは10日前。
事務所近くのコンビニへ行った時に聞いたカシャンという無機質な音。反射的に音のしたほうを見るとスマホを落としたにも関わらず、そのままボーッとしている女の人を見つけたので咄嗟にスマホを拾ってあげた。
幸いにも拾ったスマホの画面は傷1つなかった。でも、深く傷を負った顔をしたきみの表情に目を奪われて、その顔がしばらく頭から離れなかった。
次に会ったのは7日前。
コーヒーを買いに向かったテサンを迎えに行ったら事務所裏のカフェに行く道できみを見つけた。
彼女は歩道の真ん中で急に立ち止まるから心配になって声をかけた。すると、大きくて透き通った瞳から涙がぽろりと溢れるものだから、あまりに綺麗で気付いたら素直な感想を声に出してしまっていた。
彼女は走って行ってしまったが、たぶん、俺の声はきみには届いていないだろう。
だって、きみはいつも俺を見ていなかった。
そして、昨日。
俺の宿舎の隣の部屋の前にきみは落ちていた。
ぐでんぐでんに酔っ払っていて、いつからここに居たのだろうかとまた心配になった。
きみは消えてしまいそうなくらい弱々しい声で「…もう1人なの」「だからあなたも放っておいて」などと言った。
そんなの、そんなの。
鶏胸肉がたくさん入ったサラダボウルにフォークを投げ込み、頭を抱える。デビューした時より少し伸びた髪の毛をぐしゃぐしゃに掻き混ぜながら、そのままテーブルに頭を突っ伏した。
だが、すぐにガバッと頭を起こす。
いくら泣いているとはいえ、初対面の子(俺は一方的に知っているけど)相手に手を握るか?普通。いくらテサンとウナクが部屋から出てきそうだったとはいえ、抱き起こして部屋の中に投げ入れるか?普通。
そして再びテーブルに頭を突っ伏した。
枕にした腕に目を移すと、抱き寄せた彼女の薄い体を思い出す。手にはまだ彼女の手を握った感触まであって、昨日のことがまざまざと蘇ってくる。
きみの手は俺の手より一回り以上小さくて、冷えてしまったのか少しだけ冷たかった。
じわじわと熱が溜まってくる頬。
ドキドキと脈打つ心臓。
初めての感覚に指先をそわそわと動かした。
"3回目はもう運命だ"
その言葉が本当なら、
その時こそきみに言いたい。
いや、俺がそうしてあげたい。
俺はきみの笑った顔が見たいんだ。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!