そう言っても、彼はずっとそばを離れない
薬を差し出す手は毎日同じ時間に伸びてきて
食事は一緒に食べようとするし、お風呂も一緒に入ろうとするし
朝も夜も、私の部屋の前に“さりげなく”いる
私は笑って肩をすくめる
けれど、無一郎はまばたきを1度してから小さな声で言った
思い出す
地面に転がり、声も出せず、
無一郎が駆けつけてくれたあの瞬間
彼は、じっと私を見る
淡々とした声なのに心の奥で何かが揺れているのが伝わった
私は、そっと彼の袖を引いた
そのまま、ほんの少しだけ距離を詰めて
彼は少し目を見開いて
そして小さく、ほっとしたように笑った
少し、ってどのくらい?って聞こうとしたけど
その笑顔を見てたら、やめたくなった
思わず出たその言葉に、無一郎は不意をつかれたように瞬きをして
顔をほんのり赤く染めた
そう言って、静かに手を握ってくれた彼の体温は
ずっとそばにいたからこそ伝わってくる、優しい温かさだった












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。