第55話

堕ちてしまった流れ星に価値はあるか?
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2026/03/10 13:00 更新
〈meteor side〉





ごめん

ごめんね、ぐさりん

本当に、ごめんなさい









どうか貴女が、天寿を全うするまで、ずっと幸せに生きていますように





メテヲなんかが…いや、俺なんかが
そんなことを祈るのは、お門違いなんだけど
俺の両親は、発明家だった。

父親が機械系、母親が薬品系。
一般的には、すごい家族だと思う。


だけど俺は物事を理解できるようになってからはずっと、両親のことが世界一大嫌いだった。
生物
ーーー、明日期限のやつはできたかい?
生物
ごめん、もう少し…この毒も混ぜられたら、きっと革命的な毒薬になると思うの。それよりあなたは?確か新しいスタンガンを依頼されてたのよね?
生物
ああ、あれは終わったよ。そんなことよりも…
生物
…無理はしないようにね?
生物
もちろん!ありがとうね、ーー
生物
君のためなら当たり前だよ
生物
ふふ、ーーったら!
メテオ
メテオ


俺の両親は、ゴミカス以下だった

人を苦しめるものを平然と作り出し、大層なことでもないかのように世界へ放り出し、俺に笑いかけていた

それが当たり前だとでも言うような幸せそうな笑顔が、この世で一番気持ち悪かった


生物
…あらメテオ、どうしたの?もしかしてあなたもお薬に興味がある?
生物
いやいや違うよ、メテオは父さんの銃に興味があるんだろう!こっちにおいで、父さんの部屋で遊ぼう!今日は特別にマシンガンの構造を見せてあげるぞ!
生物
ちょっと、あなたずるいわ!メテオ、母さんならトリカブトの毒の取り方を教えてあげられるわ!母さんのとこにいらっしゃい!
メテオ
メテオ
…父さん母さん、おれはどっちも気になるけど、もうすぐ先生が来るからへやに行くね
生物
あ、そうだったな!残念だな…
生物
仕方ないわよーー、頑張ってねメテオ!
メテオ
メテオ
…うん、がんばるね。行ってくる
メテオ
メテオ
…先生、まだかな…

ガチャッ
メテオ
メテオ
家庭教師
こんにちはメテオくん。ちゃんと席についてて偉いね
メテオ
メテオ
…その名前で呼ばないで、先生。こんにちは
家庭教師
また君はそんなこと言って…。ご両親からもらったお名前なんだから、大切にしてあげて?
メテオ
メテオ
…うん
何も知らないんだからそんなことを言えるんだ

大嫌いなこの名前
由来は「人を簡単に壊せるくらいのものを作れる子になりますように」なんて最悪なもの

本当に、畜生極まりないと思う


…それでも、こんな事を考えてこそいるけど
俺は唯一この人が、好きで、大切な人間だった
家庭教師
…それじゃあ、今日はなにをする?算数、理科、国語があるよ
メテオ
メテオ
…それなら、理科がいい
家庭教師
了解。やっぱり君は理科が好きなんだね、親御さんの血筋かな。好きなことがあるのはいいことだ
メテオ
メテオ
…そうだね
この人は俺の両親がクズであることを知らない
だからこの言葉も、悪意がないとは知っている

その証明に、ああ言うとさりげなく名前を呼ばないようにしてくれる。



…ああ、もちろん嫌な気分にはなるけど。
メテオ
メテオ
…ねえ先生、コラムのこの字読めない
家庭教師
どれどれ…ああ、これは「しあわせ」って読むんだよ
メテオ
メテオ
しあわせ…じゃあこれも?
家庭教師
ああいや、これは「つらい」って読むんだよ
メテオ
メテオ
…にてるのに、変なの
家庭教師
そうだね、それでも…一本出したら幸せになれる、辛くてもなにか本当に些細なことが幸せに変えてくれるかもしれないって思えて、先生は結構好きだな
メテオ
メテオ
…でもさ
メテオ
メテオ
幸せになれなかったら、どうするの
家庭教師
それなら、幸せになれるまで足掻くんだよ
メテオ
メテオ
…そんなの、苦しくならないの?
家庭教師
うーん…確かにそうかも知れないけど…
家庭教師
…でも、生まれてこさせられたからには元をとった方がいいだろう?だから、先生は足掻きたいな
メテオ
メテオ
…そっか…

たまに先生は、国語の教科書に出てきそうなことを言う

そんなところが、純粋に好きだった。

こんな頭のおかしい家庭で育てられたのにまともな思考を得られたのは、絶対にこの人のおかげだと思う
家庭教師
…よし、今日の授業はこれでおわり。1時間半お疲れ様、よく頑張った!
メテオ
メテオ
…先生のじゅぎょうは面白いから
家庭教師
…ありがとう。そう言われるのが一番一番嬉しいんだ、先生
家庭教師
それじゃ、また来週。またね
メテオ
メテオ
またね、先生

先生はいつも、「またね」と言ってくれた




それは気づかぬ内に、俺の心の安寧に強く繋がっていたんだと思う
そうして迎えた7歳の誕生日

両親は、俺の誕生日プレゼントに銃を渡した


生物
メテオ、それ持ってこっち見て!カメラカメラ!
メテオ
メテオ
…うん
正直言うことなんて聞きたくない

でも、いつかこの家から逃げるため
気持ちを殺して、必死に猫をかぶっていた
生物
きゃーー!!メテオかっこいい!!すっごく似合ってるわよ!!
生物
流石父さんと母さんの息子だ、もう銃も爆弾も毒薬も睡眠薬も作れるんだからな!プログラミングまでできるようになって、父さんも母さんも頭が上がらないよ!
生物
そうね、もう腕前ならプロに匹敵するもの!もっと色々やり続ければ父さんも母さんも越せるわよ!
メテオ
メテオ
…ありがとう、父さん、母さん

シャッター音が鳴り続ける
生き地獄だ

…でも、今日は授業がある日だったな
メテオ
メテオ
…父さん母さん、今日はじゅぎょうがあるからもうへやに…
生物
ん?何を言ってるんだい?
メテオ
メテオ
え?
生物
…あっ!!ごめんなさいあなた、私伝えるのを忘れてたわ…!
生物
そうだったのかい?まあ仕方ないよ、最近は依頼が立て込んでいたからね…
メテオ
メテオ
…父さん?
メテオ
メテオ
どういう、こと
生物
あっそうだった、説明しないとな!ごめんなメテオ!
生物
メテオ、もう授業はないのよ。伝え忘れててごめんね
メテオ
メテオ
…どう、して…
生物
…メテオ、あの先生のこと好きだったのかい?そうだったらごめんな…
生物
メテオ、あの先生は死んじゃったのよ。だから、もう授業はないの



























メテオ
メテオ
は?
生物
あの先生少し感づいていたからなあ、可哀想だったけど仕方ないんだよ
生物
それに最後は私達の教育方針にダメ出しまでしてきたものね、仕方ないわ
メテオ
メテオ
…んな
生物
ん、どうしたの?




いつも通りの気色悪い顔

にこにこと、最低なことをしているのにも関わらず作り続ける笑み


しかも今日は、俺の大切な人を奪った


それでもまだ平然と笑っているクズに向けて、感じたのは

































メテオ
メテオ
ふざけんな




































胸焼けするほどの、殺意だった。
メテオ
メテオ
…あ………
その間のことは、よく覚えていない

気づけば、ぜんぶが血まみれだった

床も、机も、自分の服も、手も

床にはもう動かない人間が穴だらけの残骸となって落ちていた




にんげんを、ころした


その事実がゆっくりと、俺の頭に入り込んでいった






メテオ
メテオ
……っあ………!



メテオ
メテオ
うあああああああ"あ"あ"っっっ!!!!!!


































それから、全力で走った


大嫌いな家からやっと出られて、大嫌いな両親からやっと離れられたけど

俺の頭の中には、絶望だけがぐるぐるとどす黒い色を持って渦巻いていた








やった


やって、しまった







あんなに人を傷つける奴等を嫌っていたのに、俺も同じことをしてしまった























最低だ



世界一のド畜生だ




両親にあんな悪口を思う資格なんて、今の俺にはどこにもないんだ













メテオ
メテオ
…あ…ああああ"あ"っっ…!!!
























きもちわるい




胃のなかのもの、吐きだしそうだ









目の前が歪んでいく中、何度も嗚咽して地面に蹲った






それでもまだ、あの場所から離れたくて走り続けた




































そうして辿り着いたのは、深い深い山の中だった。

























メテオ
メテオ
"げ、ぇ"っごぼっ、あ"…






汚い音を喉から何度も吐き出した




前なんて向けず、なにもわからないままよろよろとつたない走り方をしてはまた吐いた















目の前に木材が見えて、かろうじて走るのを止めた







































メテオ
メテオ
…なんだ、これ


誰かの住居?


だったらいっそ、俺を通報してくれないだろうか



どうにか確かめようと、また吐き出しそうなのを手で無理矢理抑えて上を見た

































メテオ
メテオ
…ひと、いない…?



蔦に絡まれた壁


明らかに手入れされてない汚れた窓


なんとか中を覗き込むと、想像通り誰もいない



あまりの情報の多さに脳がエンストでも起こしたのか、ゲロまみれの手をドアノブにかけた
















ガチャッ










メテオ
メテオ
…えっ




驚くほど簡単に、ドアは動いた


もうなんでもいいかとやけになって、靴を脱いでゾンビのようにのろのろと中に入ってみた








ぐるりとのろまながらも見渡してみた室内は、少なくとも長期間放置されているとは全くもって思えなかった




試しに蛇口をひねってみると、勢いよくきれいな水が出てきた。






メテオ
メテオ
…?
  



なんなんだ、ここ。




…もしかして、単にめんどくさがりな人が住んでるだけ…?


だとしたらはやく出ていかないと…




















メテオ
メテオ
あ…?





唯一開け放されていた部屋





そこで、俺の体は凍ったように動かなくなった



































メテオ
メテオ
あっ…ぁああっ…!!!



























ああ

この世界はなんで、こんなにも無情なんだろう









何度も何度も、数え切れないほど見てきた表紙



あのひとが、もっていたもの



















理科の教科書を視界に捉えて

また頭を押さえ、ずるずると床に倒れ込むようにして蹲った





































メテオ
メテオ
…せん、せい…




嘘だと思っていたかった

信じていたくなかったという気持ちが、多分心の何処かにいたんだろう






さっきまで止まっていた吐き気がまた込み上げてきて、絶対に吐いてやるものかと口元を手で全力で押さえた








































いや、でも





これは、考えようによっては_____































メテオ
メテオ
…っぐ…

まだふらつく体をなんとか留めて立ち上がった










前、先生に聞いた言葉が蘇る


























『生まれてこさせられたからには元をとった方がいいだろう?』








































ねえ先生、それはさ








今の俺にも、適用される言葉でいいのかなあ


































メテオ
メテオ
…せん、せい…




あふれた涙を袖で拭って、小さな声で情けなく呟いた








そういえば確かに先生、興味のないことには雑だって言ってたなあ










だったら、俺に対する授業は

もしかしたら、俺自身に対しても



少しだけでも、興味を持っててくれてたのだろうか







































ねえ、先生







先生の家を綺麗に保ちたいって身勝手な理由で、生きていくのは許されますか?






そんな世界最悪の日から、数ヶ月がたった







結局俺は、死への恐怖と身勝手な欲望に負けて、のうのうと生き続けていた。



この家に完全に住み着く前、一度だけ前の家に一度だけ帰って、必要なものを持ってきたことがある。

そのおかげで今、この家には俺の服や家で使っていた家具や食器等の俺の私物が追加されていた。

…それと、少しの薬品と機械部品も。



クソバカだと思う。

先生にいいことだと褒められたからなんて言い訳で、自分の欲を優先した。

もちろん、持ってきてから触れたことは一度もないんだけど。




この家の近くには川があった。
沢山の枯れ葉が落ちて、切り株があった。

だから、水道やガスが止まっても、案外なんとかなっていた


そんな生活が余計に、自己嫌悪を増幅させていた


メテオ
メテオ
…あと、リビング…今日は箒を…





メテオ
メテオ
…っはは…


なんで生きてんだろ、俺。



もういっそ、適当な場所で首でも吊って死んでしまおうか。


ああでも、そうしたら先生の家が…































なんて、考えていたとき






































粘龍 沙織
粘龍 沙織








メテオ
メテオ
…え、人…?






































君と、出会った。

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