〈meteor side〉
ごめん
ごめんね、ぐさりん
本当に、ごめんなさい
どうか貴女が、天寿を全うするまで、ずっと幸せに生きていますように
メテヲなんかが…いや、俺なんかが
そんなことを祈るのは、お門違いなんだけど
俺の両親は、発明家だった。
父親が機械系、母親が薬品系。
一般的には、すごい家族だと思う。
だけど俺は物事を理解できるようになってからはずっと、両親のことが世界一大嫌いだった。
俺の両親は、ゴミカス以下だった
人を苦しめるものを平然と作り出し、大層なことでもないかのように世界へ放り出し、俺に笑いかけていた
それが当たり前だとでも言うような幸せそうな笑顔が、この世で一番気持ち悪かった
ガチャッ
何も知らないんだからそんなことを言えるんだ
大嫌いなこの名前
由来は「人を簡単に壊せるくらいのものを作れる子になりますように」なんて最悪なもの
本当に、畜生極まりないと思う
…それでも、こんな事を考えてこそいるけど
俺は唯一この人が、好きで、大切な人間だった
この人は俺の両親がクズであることを知らない
だからこの言葉も、悪意がないとは知っている
その証明に、ああ言うとさりげなく名前を呼ばないようにしてくれる。
…ああ、もちろん嫌な気分にはなるけど。
たまに先生は、国語の教科書に出てきそうなことを言う
そんなところが、純粋に好きだった。
こんな頭のおかしい家庭で育てられたのにまともな思考を得られたのは、絶対にこの人のおかげだと思う
先生はいつも、「またね」と言ってくれた
それは気づかぬ内に、俺の心の安寧に強く繋がっていたんだと思う
そうして迎えた7歳の誕生日
両親は、俺の誕生日プレゼントに銃を渡した
正直言うことなんて聞きたくない
でも、いつかこの家から逃げるため
気持ちを殺して、必死に猫をかぶっていた
シャッター音が鳴り続ける
生き地獄だ
…でも、今日は授業がある日だったな
いつも通りの気色悪い顔
にこにこと、最低なことをしているのにも関わらず作り続ける笑み
しかも今日は、俺の大切な人を奪った
それでもまだ平然と笑っているクズに向けて、感じたのは
胸焼けするほどの、殺意だった。
その間のことは、よく覚えていない
気づけば、ぜんぶが血まみれだった
床も、机も、自分の服も、手も
床にはもう動かない人間が穴だらけの残骸となって落ちていた
にんげんを、ころした
その事実がゆっくりと、俺の頭に入り込んでいった
それから、全力で走った
大嫌いな家からやっと出られて、大嫌いな両親からやっと離れられたけど
俺の頭の中には、絶望だけがぐるぐるとどす黒い色を持って渦巻いていた
やった
やって、しまった
あんなに人を傷つける奴等を嫌っていたのに、俺も同じことをしてしまった
最低だ
世界一のド畜生だ
両親にあんな悪口を思う資格なんて、今の俺にはどこにもないんだ
きもちわるい
胃のなかのもの、吐きだしそうだ
目の前が歪んでいく中、何度も嗚咽して地面に蹲った
それでもまだ、あの場所から離れたくて走り続けた
そうして辿り着いたのは、深い深い山の中だった。
汚い音を喉から何度も吐き出した
前なんて向けず、なにもわからないままよろよろとつたない走り方をしてはまた吐いた
目の前に木材が見えて、かろうじて走るのを止めた
誰かの住居?
だったらいっそ、俺を通報してくれないだろうか
どうにか確かめようと、また吐き出しそうなのを手で無理矢理抑えて上を見た
蔦に絡まれた壁
明らかに手入れされてない汚れた窓
なんとか中を覗き込むと、想像通り誰もいない
あまりの情報の多さに脳がエンストでも起こしたのか、ゲロまみれの手をドアノブにかけた
ガチャッ
驚くほど簡単に、ドアは動いた
もうなんでもいいかとやけになって、靴を脱いでゾンビのようにのろのろと中に入ってみた
ぐるりとのろまながらも見渡してみた室内は、少なくとも長期間放置されているとは全くもって思えなかった
試しに蛇口をひねってみると、勢いよくきれいな水が出てきた。
なんなんだ、ここ。
…もしかして、単にめんどくさがりな人が住んでるだけ…?
だとしたらはやく出ていかないと…
唯一開け放されていた部屋
そこで、俺の体は凍ったように動かなくなった
ああ
この世界はなんで、こんなにも無情なんだろう
何度も何度も、数え切れないほど見てきた表紙
あのひとが、もっていたもの
理科の教科書を視界に捉えて
また頭を押さえ、ずるずると床に倒れ込むようにして蹲った
嘘だと思っていたかった
信じていたくなかったという気持ちが、多分心の何処かにいたんだろう
さっきまで止まっていた吐き気がまた込み上げてきて、絶対に吐いてやるものかと口元を手で全力で押さえた
いや、でも
これは、考えようによっては_____
まだふらつく体をなんとか留めて立ち上がった
前、先生に聞いた言葉が蘇る
『生まれてこさせられたからには元をとった方がいいだろう?』
ねえ先生、それはさ
今の俺にも、適用される言葉でいいのかなあ
あふれた涙を袖で拭って、小さな声で情けなく呟いた
そういえば確かに先生、興味のないことには雑だって言ってたなあ
だったら、俺に対する授業は
もしかしたら、俺自身に対しても
少しだけでも、興味を持っててくれてたのだろうか
ねえ、先生
先生の家を綺麗に保ちたいって身勝手な理由で、生きていくのは許されますか?
そんな世界最悪の日から、数ヶ月がたった
結局俺は、死への恐怖と身勝手な欲望に負けて、のうのうと生き続けていた。
この家に完全に住み着く前、一度だけ前の家に一度だけ帰って、必要なものを持ってきたことがある。
そのおかげで今、この家には俺の服や家で使っていた家具や食器等の俺の私物が追加されていた。
…それと、少しの薬品と機械部品も。
クソバカだと思う。
先生にいいことだと褒められたからなんて言い訳で、自分の欲を優先した。
もちろん、持ってきてから触れたことは一度もないんだけど。
この家の近くには川があった。
沢山の枯れ葉が落ちて、切り株があった。
だから、水道やガスが止まっても、案外なんとかなっていた
そんな生活が余計に、自己嫌悪を増幅させていた
なんで生きてんだろ、俺。
もういっそ、適当な場所で首でも吊って死んでしまおうか。
ああでも、そうしたら先生の家が…
なんて、考えていたとき
君と、出会った。





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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。