第10話

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2026/04/15 02:03 更新
BG  side
チョキン、チョキンとハサミの音が部屋に響く。

いつもより上手く手が動かせていないのか、
落ちてしまう葉や花弁が多い気がしなくもないけど、
ダークレッドの薔薇の棘をハサミで落としていく。

夕飯もお風呂も済ませて、すっかり日が落ちた自室で
手癖のようにぼーっと花の手入れをしながら、今日の
昼に、テヒョン君に抱き締められたことを思い出す。
BG
BG
………。
BG
BG
…っ〜…はぁ〜〜〜〜〜〜…。
俺ってば…はしたない…!

色々我慢して澄ましていた顔を一気に崩すと、
脱力するみたいに机に花とハサミを置いて姿勢を崩す。
俺の溜息で机に散らばった葉が少しだけ揺れた。

ぎゅぅっ…しないの?なんて聞いてさ…。
俺がしたかっただけだよなぁ…ほんとにさ!
テヒョン君もしたいと思ってたって言ってたけど…。

よくよく考えたらテヒョン君は仕事な訳で、
俺がそうやって言ったから合わせてくれただけの
可能性なんていくらでもあるんだよなぁ…。

初めて、テヒョン君が俺にぎゅぅって、してくれた
あの日から。まるで中毒になったみたいに、もっと、
もっとって、テヒョン君に触れたくなる。

ハーブの優しい匂いを感じたくなって、
じっと、テヒョン君の格好いい顔を見つめて、
あぁ、また抱き締めてくれないかな、なんて。

考えるように、なってしまった。

こんなの父さんが聞いたら目を丸くするよ…。
仕事の邪魔するなって怒られちゃうかもしれない。
気持ちを切り替えないと…そろそろ、本当に…!


コンコンコン
BG
BG
ビクッ
BG
BG
い、いいよ!入っていいよ!
TH
TH
失礼します。
俺の声とは真逆に落ち着いた声色で、
部屋の扉を開くなり、お盆に乗ったティーポットと
カップ、それから…綺麗な顔を俺に見せる。

そんなテヒョン君に釘付けになる俺なんて放って、
そのままベッドの横の小さなテーブルにティーセットを
セッティングすると、ようやく俺の方を向いた。
TH
TH
まだ…花の手入れをされているのですか?
BG
BG
あ、うん、あー…ね、眠れなくて…。
TH
TH
…そうでしたか。
TH
TH
カモミールティーを準備致しました。
安眠効果が期待されるお茶ですので、
ぜひ、ベッドでお試し頂きたいのですが。
BG
BG
あ、昨日言ってた…!
父さんの茶葉の!飲む飲む!
言われるままお花を机に放置して、車椅子の車輪止めを
外す。手で漕いでベッドの横まで行くと、テヒョン君が
すっと俺に近付いてきて。

俺の体に手を伸ばして、キュッと抱き締めた。
BG
BG
へっ?!
TH
TH
TH
TH
…どうされましたか?
BG
BG
や、ど、どう…って…!
TH
TH
???
困惑する俺を横目に、少し不安そうに。
さっきより優しい力で俺を抱きしめ直す。

俺の心臓は一気に拍数を上げて、
顔周りが熱くなってくるのを感じた。

なんで急に?!なんで急に?!?!
そんな前触れ一切なかったのに!!
きゅ、、急にぎゅぅってするなんて…!
BG
BG
て、てひょ…
俺が名前を言い終える前に、ふわりと身体が持ち上がる
感覚がして、そのままポスンとベッドに下ろされる。

テヒョン君がキョトンとした顔で俺を見つめて、
ようやく、テヒョン君は俺をベッドに移すために
体を抱えていたんだと気付いた。

ぼんっと爆発しそうな程の羞恥心が溢れかえって、
どうしようもない俺とは裏腹に、やはり落ち着きの
塊みたいに黙々と俺の足をベッドに上げるテヒョン君。

はしたないにも程がある…!
勘違いも甚だしい…恥ずかし過ぎて死にたい…!
思わず手で顔を覆って倒れ込み、身体を縮めこんだ。
BG
BG
…っ〜〜〜……っ…!!
TH
TH
…??
TH
TH
お茶、お淹れしますね。
そんなテヒョン君の声は、やっぱり落ち着いてて。

そんなテヒョン君をベッドに寝っ転がったまま、
ぐっと顔を抑える手の指の隙間から覗いた。

頭ん中、すっごく綺麗なんだろうなぁなんて、
俺とは真反対だとつくづく思い知らされる。

物覚えが早くて、無駄がないし。
一個教えたらそれを応用して十個は出来るようになる。
それをまた応用してって、どんどん勝手に優秀になる。

それに加えて格好いいし、声も聞けば落ち着く声色で。
力持ちでなんでも出来ちゃうし、スタイルも良くて。

きっと、執事なんかじゃなければ。

色んな女の人がテヒョン君に夢中になるんだろうな。
そういえば、初めてテヒョン君がここに来た時も、
同じようなこと、考えてたっけな。

きっと、テヒョン君は女の人にも優しいんだろうな。
気の遣い方とか作法とか、全部出来るだろうし。
色んな人が、テヒョン君の虜になるんだろうなぁ。

もやもや もやもや

なんだか、心が詰まってるみたい。
そんな場面を想像しただけなのに、気分が落ちる。
テヒョン君が皆に好きだって言われるのは嬉しい。

けど。
テヒョン君が、もしそれに答えたら。

俺は。
BG
BG
………テヒョン君、ってさ。
TH
TH
はい、なんですか。
テヒョン君は、ティーカップにお茶を注いで、
まだ寝っ転がっている俺にいつでも渡せるように
ソーサーにカップを乗せ、手に持って待っていた。

そんな姿に、心のもやもやが大きくなっていく。
BG
BG
お友達って、いる?
TH
TH
…友人、ですか?
BG
BG
うん。お友達。
執事のテヒョン君じゃないテヒョン君を、
よく知っている人、っているの?
TH
TH
…どうして、気になるんですか?
BG
BG
……わかんないけど。
BG
BG
ねぇ、いる?
こんな事、なんで聞いてるんだろ、俺。

テヒョン君の事、知りたいと思った。
仕事じゃないテヒョン君は、どんな人なんだろうって。

それから、いいなぁ、とも思った。

俺は、テヒョン君の主人だから。
どうしたって、執事じゃないテヒョン君には会えない。
でも、他の人は執事じゃないテヒョン君に会えるんだ。

俺だって、執事じゃないテヒョン君に会いたい。
主人と執事じゃなくて、ボムギュとテヒョンとして。

どうして…こんな事思っちゃうんだろう。
今まで来てくれた人たちには、思わなかったのに。
TH
TH
えぇ、まぁ。いますよ。
BG
BG
………そっか。
じゃあ、俺だけ知らないのか。
執事じゃない、テヒョン君を。

途端に、ひとりぼっちになったような気分になった。
俺の知らないテヒョン君が、やっぱりいるんだと。

あぁ、ダメだ。俺、今もきっとおかしい。
ほら、テヒョン君凄く不思議そうに俺を見てる。
そりゃそうだよね、いきなりこんな事聞かれたら。

でも、俺もどうしていいか、分かんないんだよ。
BG
BG
俺ね…変になっちゃうんだ。
TH
TH
…変に、なる?
BG
BG
うん。そう。変になっちゃう。
BG
BG
テヒョン君を見ると、変になる。
TH
TH
僕、ですか?
その言葉にテヒョン君は少し不安そうな顔をした。
顔を隠していた手をそっと退けて、体を起こす。
テヒョン君は慌ててカップを置き、手伝ってくれた。

すっと離れそうになる、支えてくれていたテヒョン君の
手が寂しくて思わずぐっと掴み、そのまま引き寄せる。
テヒョン君は驚いたように、真ん丸な目で俺を見た。
BG
BG
テヒョン君が俺に何かしてくれる度に、
ここの、心の所がぎゅうっって苦しくて、
BG
BG
もっと、もっと…!
して欲しいって思っちゃうんだよ。
TH
TH
………。
BG
BG
テヒョン君がいたら、
絶対目で追いかけちゃうし…!
BG
BG
お花のお世話とかお菓子作りの時だって、
BG
BG
このお花、テヒョン君に似合いそうとか、
テヒョン君の口に合うようにって思って
作ったりするんだよ…。
BG
BG
全部全部、テヒョン君の事…、
いっぱい考えながらしちゃうんだよ…、
BG
BG
今までこんなことなかったのに…、
TH
TH
ボムギュ、様…それは…、
BG
BG
今だってそう!今だってそうなんだよ!
テヒョン君が部屋に入ってきた時も…!
BG
BG
格好いいなぁって思って、目で追って、
というか…目が離せなくなるんだよ…!
BG
BG
こんなに格好いいならきっと、女の人にも
人気なんだろうなとか考えちゃうしさ…!
TH
TH
ちょ、一旦落ち着いて下さっ…!
BG
BG
そしたらすっごいもやもやして…!
もう…苦しくて!なんか凄く嫌で…、
TH
TH
ボムギュ様…!
テヒョン君が、大きく俺の名前を呼ぶ。

その顔は酷く必死で、困っているようにも見えた。
それでも俺は、この心の原因を突き止めたくて。
あんまり切羽詰まってて、涙まで滲んできて。

テヒョン君の腕を、必死に掴む。
BG
BG
俺…どうしちゃったのかな…。
これも…病気の症状なの…?
TH
TH
…っ…………。
テヒョン君は、何も言わない。
いや、言いたそうにしてるけど。

言えない、感じだ。

きっと、俺のこの感じがあまりいい事ではなくて、
どう言えばいいのか迷っているんだと、察した。
ずるっと、テヒョン君の腕を掴む手の力が抜ける。

それでもテヒョン君と見つめ合ったまま、
現在進行形で高鳴る胸を抑えるように。
テヒョン君の答えを、待った。

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