第37話

引き渡し,されど地獄
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2026/02/08 00:29 更新
イタリア王国side


正体がバレた後,静かに飛行機は満州へと降りた。
その当時,彼女の自国では内戦がひどく,
行ったとて彼女自身が傷付き命を狙われるだけだ。
ただ,満州に行って
状況が変わらないのもまた事実であった。

イタリア王国
…着いたけど

ふてぶてしい態度でそう言うと,
彼女は少し視線をこちらにやった後,
またそれをそらしてこう言った。

あなた
…着いてこい
ナチが待ってる。
ナチが待ってる,そう言って彼女はドアを開けた。
静かに時が過ぎていった。
頭が機能しなかった。
殺されるかな,俺。
なんらかの喪失感を抱えて外に出た。
彼女はその数歩先で待っていた。

あなた
おい,イタリア王国
…懐かしいほど,ずっと呼ばれなかった名前。
自分の正式な名称なはずなのに,何故か遠く感じた。
距離が遠くなっているのは事実だった。

イタリア王国
なに
少しだけ,涙が滲んだ気がした。
でも,心にある決意は緩まなかった。
あなた
今だけ,入国する時だけは
枢軸としてお前を認める。
あなた
……誇りを持ち入国したまえ。
彼女の送る視線が,さっきより少し暖かった。
国民達からの視線や信頼故だとしても,
それは確かに前と同じ視線だった。
イタリア王国
…うん
ただ,そう返して門をくぐった。
いつも通り,暖かい歓声だけが身を包んだ。
ふと,1人のお嬢さんがこけてこちら側へ転んだ。
母親はひたすらに頭を下げた。
『許してほしい』と。
あなたの方を見た。
今,生死の決定権があるのは彼女だから。
あなた
…(ニコ
彼女はお気になさらず,と言った表情で手を振った。
少し遅れて,俺もそれに合わせた。
少なくとも国民で在り幼子。
その存在はいつかこの国を継ぎ,守っていく。
それだけで,今自分が
戦っている意味が消え失せそうだった。
自分は人を殺した。
年寄りから幼子まで。
皆んな,怯えてた。
手も,瞳孔も,何もかも揺らいでた。
なんで自分がここにいるのか理解してなかった。
殺されにきたんじゃないかって思ってた。
だって実際そうだったから。
目の前で死にゆく者たちに,
ガソリンをかけて火をつけた。
酷い日はそのままだった。
…でもそれは兵士のためだった。
何が何だかわからずに,
雪に埋もれた仲間は死ぬまで利用されていた。
夢を語り合った奴がいたって,
その時に夢なんか見てられなかった。
それがその時の現実だった。
それでも皆んな,笑ってたんだ。
兵士だって,それなりに適合してたはずだった。
もう慣れたみたいな顔してた。
でも,それでも皆んな死んだ。
たとえ生き残ったって,そこに戦場に行く前の面影は
何一つなかった。
家族も,風景も,家も,街さえも,
何もなかった。
それが戦争だ。
何もないんだ。
得るものは何もない。
だって増えるのは死者の数だけだ。
教科書のページだけだ。
涙の数だけ強くはならない。
涙の数だけ奪われるんだ。
自らの見た事を思い出して涙が伝った。

あなた
…泣くな
あなた
それができないなら下でも向いておけ。
お前に涙など100年早い。

当たり前かのように下を向いた。
彼女の言葉が胸に滲んだ。
君のお兄さんの口癖だったんだよ,それ。
いっつもそう言うんだ。
『お前の顔に涙は似合わない』って。
ニカッ,って笑うんだ。
ねぇ,日帝。
僕,どうすればまた,君と笑えるかな。

あなた
…拭け
そう言って差し出されたのは
いつか僕があげたハンカチだった。
あなた
拭き終わったら返せ。
感情を読み取らせない,と言うように
紅色の綺麗な瞳を隠してそう言った。
イタリア王国
これ,まだ待ってたんだ?
あなた
…物に罪はない。
嘘だ。
きっと,情が深くて捨てられなかったんだね。
君は,いっつもそうだった。
昔部屋に遊びにいった時,
押し入れの中から,いっぱいプレゼントが出てきて。
遊びどころじゃなくなって…
結局皆んなで片付けて,その後皆んなで笑った。
その時の彼女は完璧なんかじゃなくて,
ただ1人の可愛い少女に見えた。
イタリア王国
ありがとね
あなた
ん…
ハンカチを一声かけて返した。
ん,とだけ返された言葉には,嬉しさが滲んでいた。
あなた
行くぞ,きっと今頃イライラしながら
ナチはコーヒーを飲んでる。
イタリア王国
そうだね(笑
容易に想像できる風景で思わず笑えた。
裏切り者の立場なはずなのに,咎められない笑みに
今は,少し甘えて笑うことにした。

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