イタリア王国side
正体がバレた後,静かに飛行機は満州へと降りた。
その当時,彼女の自国では内戦がひどく,
行ったとて彼女自身が傷付き命を狙われるだけだ。
…
ただ,満州に行って
状況が変わらないのもまた事実であった。
ふてぶてしい態度でそう言うと,
彼女は少し視線をこちらにやった後,
またそれをそらしてこう言った。
ナチが待ってる,そう言って彼女はドアを開けた。
…
…
静かに時が過ぎていった。
頭が機能しなかった。
…
殺されるかな,俺。
なんらかの喪失感を抱えて外に出た。
彼女はその数歩先で待っていた。
…懐かしいほど,ずっと呼ばれなかった名前。
自分の正式な名称なはずなのに,何故か遠く感じた。
距離が遠くなっているのは事実だった。
少しだけ,涙が滲んだ気がした。
…
でも,心にある決意は緩まなかった。
彼女の送る視線が,さっきより少し暖かった。
国民達からの視線や信頼故だとしても,
それは確かに前と同じ視線だった。
ただ,そう返して門をくぐった。
いつも通り,暖かい歓声だけが身を包んだ。
ふと,1人のお嬢さんがこけてこちら側へ転んだ。
母親はひたすらに頭を下げた。
『許してほしい』と。
…
あなたの方を見た。
今,生死の決定権があるのは彼女だから。
彼女はお気になさらず,と言った表情で手を振った。
少し遅れて,俺もそれに合わせた。
少なくとも国民で在り幼子。
その存在はいつかこの国を継ぎ,守っていく。
…
それだけで,今自分が
戦っている意味が消え失せそうだった。
自分は人を殺した。
年寄りから幼子まで。
皆んな,怯えてた。
手も,瞳孔も,何もかも揺らいでた。
なんで自分がここにいるのか理解してなかった。
殺されにきたんじゃないかって思ってた。
…
だって実際そうだったから。
目の前で死にゆく者たちに,
ガソリンをかけて火をつけた。
酷い日はそのままだった。
…でもそれは兵士のためだった。
何が何だかわからずに,
雪に埋もれた仲間は死ぬまで利用されていた。
夢を語り合った奴がいたって,
その時に夢なんか見てられなかった。
それがその時の現実だった。
…
それでも皆んな,笑ってたんだ。
兵士だって,それなりに適合してたはずだった。
もう慣れたみたいな顔してた。
でも,それでも皆んな死んだ。
たとえ生き残ったって,そこに戦場に行く前の面影は
何一つなかった。
家族も,風景も,家も,街さえも,
…
何もなかった。
それが戦争だ。
何もないんだ。
得るものは何もない。
だって増えるのは死者の数だけだ。
教科書のページだけだ。
涙の数だけ強くはならない。
涙の数だけ奪われるんだ。
…
自らの見た事を思い出して涙が伝った。
当たり前かのように下を向いた。
彼女の言葉が胸に滲んだ。
君のお兄さんの口癖だったんだよ,それ。
いっつもそう言うんだ。
『お前の顔に涙は似合わない』って。
ニカッ,って笑うんだ。
…
ねぇ,日帝。
僕,どうすればまた,君と笑えるかな。
そう言って差し出されたのは
いつか僕があげたハンカチだった。
感情を読み取らせない,と言うように
紅色の綺麗な瞳を隠してそう言った。
嘘だ。
きっと,情が深くて捨てられなかったんだね。
君は,いっつもそうだった。
昔部屋に遊びにいった時,
押し入れの中から,いっぱいプレゼントが出てきて。
遊びどころじゃなくなって…
結局皆んなで片付けて,その後皆んなで笑った。
その時の彼女は完璧なんかじゃなくて,
ただ1人の可愛い少女に見えた。
ハンカチを一声かけて返した。
ん,とだけ返された言葉には,嬉しさが滲んでいた。
容易に想像できる風景で思わず笑えた。
裏切り者の立場なはずなのに,咎められない笑みに
今は,少し甘えて笑うことにした。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。