重たい体を無視して駆け寄ると、倒れていたやくがゆっくりと瞼をあけた。
上半身を支えて抱き起すと、やくは声にならない声で謝ろうとする。
やくは大丈夫か、と聞こうとする僕をさえぎって、やくはまた違うことを謝り始めた。
やくは、静かに僕たちを見守っているつばきに視線を投げた。
顔を動かすことすら億劫なのか、ゆっくり、本当にゆっくり。
僕の傍に立ったまま、つばきはやくを見下ろす。
冷たい目。
だけど、不思議と声色は優しく感じてしまう。
つばきは一度目を閉じて、小さく息を吐く。
そして次に開いた時、その目にはもう冷たさは感じられなかった。
やくを人間として見ているような、僕の友達と認めてくれているような、そんな慈愛が込められているように感じた。
そう言って、つばきはこの場を立ち去った。
きっと、僕らに時間をくれたんだと思う。
つばきがいなくなった後、やくは小さく笑みをこぼした。
もう限界が近いのか、やくの目はほとんど閉じたままになっていた。
それでも話そうとしてくれるやくの言葉を一つも逃したくなくて、僕は彼を抱きかかえた腕に力を込めた。
それが伝わったのか、やくがうっすらと目を開ける。
やくはゆっくりと重たそうに腕をあげた。
そして、そっと僕の頬に触れる。
その指先が氷の様に冷たくて、僕の熱で溶けて行ってしまいそうで怖かった。
やくの名前を呼ぶと、やくはくしゃりと笑った。
その笑顔が一瞬揺らいで見えて、最期を悟る。
僕がそう言うと、やくは一瞬驚いた表情を見せ、ゆっくりと微笑んだ。
そして、僕の頬に触れていた手から、力が失われてゆく。
やくの手は僕の傷に触れ……る前に、重力に従って落ちた。
そしてその手が次第に薄くなっていって、光の粒子となって僕の前を通りすぎていく。
手だけじゃない。僕の腕から、やくが消えていく。
最期、そんな言葉を遺して。
















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。