蝉の声が、朝から途切れることなく響いていた。
終業式の日。
体育館の中は熱気とざわめきに包まれ、生徒たちは先生の言葉を半ば聞き流しながら、明日からの夏休みに思いを馳せていた。
隣で凛がハンカチで汗を拭きながら、小声でつぶやいた。
前の方では想真が友達とふざけて笑っていて、湊斗はそんな彼を半ば呆れ顔で見ていた。
――いつも通りの風景。それが、どうしてこんなに眩しく感じるのだろう。
終業式が終わると、クラスでは一気に解放された空気が広がった。
机の上にはプリントが散らばり、窓際から差し込む光がきらきらと反射している。
想真が両手を上げて叫ぶと、教室中が笑い声で包まれた。
湊斗の冷静なツッコミに、また笑いが起きる。
そんな中で私は、少し遠くからその光景を見つめていた。
胸の奥に広がるのは期待と、ほんの少しの不安。
想真がすかさず割り込んできて、湊斗も渋々といった様子で立ち上がる。
こうしていつもの4人で過ごす放課後が、また始まるのだと思うと、胸が少しだけ温かくなった。
校門を出ると、夏の匂いが一気に押し寄せてきた。
アスファルトの照り返し、風に混じるひまわりの香り、遠くで聞こえる蝉の合唱。
想真が子どもみたいにテンションを上げ、私は思わず笑ってしまう。
その言葉に、想真の目が一瞬嬉しそうに輝いたのを、私は見逃さなかった。
4人の笑い声が夏の風に溶けていく。
そんな平和な瞬間が、いつまでも続くように感じられた。
帰り道、陽射しはゆるやかに傾き始めていた。
私は少し歩く速度を落とし、校舎の向こうに沈みかける太陽を見上げる。
凛の目は真剣で、どこか切なげでもあった。
私はその表情を見て、心の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
そう自分に言い聞かせるように、笑った。
家に帰ると、妹の陽葵が玄関で出迎えた。
その小さな声が、家の中に弾けて響いた。
夜、机の上に置かれたカレンダーを見つめながら、私は赤ペンで「夏祭り」の日を丸で囲んだ。
胸の奥が少し痛んだけれど、それを包み隠すようにそっと笑った。
窓の外では、蝉の声が静かに夜に溶けていった。
明日から始まる夏休み――それが、何かを変える季節になる気がしてならなかった。











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!