第6話

day 5
505
2025/10/17 23:47 更新


深夜 01:12


窓を少しだけ開けているせいか、
カーテンがほそく揺れている。

遠くの国道を走るトラックのエンジン音が、
ときどき低く響く。


それ以外はやけに静かで、
俺の隣に感じるあなたの呼吸だけが
やけにくっきりと伝わる。


ベッドの中、
あなたが腕を伸ばして俺を抱きしめてきた。


頭を撫でられる感触。


指先が髪をととのえるたび、
首すじにやわらかな体温が落ちていく。



「 ねぇ、千空 」



声が小さく、囁きに近い。
俺はまぶたを半分閉じたまま返事をする。


「 ……ん 」

「 今日さ、研究室の先輩に
“あの論文の考察、天才か?”って
言われたんでしょう? 」

「 おい、どっから聞いた 」

「 ふふ、秘密 」


指が髪をくしゃっとかき回したあと、
額にそっと触れる。

冷たい指先が、やがて温かくなる。


「 ほんと、そういうとこ尊敬してるよ
無駄口叩かないで結果だけ叩きつけてくる感じ
……でもたまにムキになって
寝不足で倒れるのはいただけないけどね 」

「 皮肉を混ぜんのが、てめぇらしいな 」

「 だって、千空って万能だけど、
案外ポンコツなとこもあるんだもん
そこも好きなんだけどさ〜」


肩のあたりを軽くつつかれる。
言葉の最後だけ、
少し、息を呑んだように震えていた。


「 ……どーも 」


それしか言えなくて、
俺は腕を伸ばし、
背中を抱くようにあなたを引き寄せる。

体温と呼吸がかさなった。



「 千空 」



「 ……あ? 」


「 ほんとはね、

もっと前に言おうと思ってたんだけど……

私、 多分、 もう…… 」


ふ、と天井の暗闇が遠ざかった。

眠気で意識が縁取られはじめていたのに
今の言葉が妙にくっきり刺さる。



ーー 何だ、今の



けれど声は小さく、
まるでベッドの中に湧いた幻聴のようだった。



「 ……何、言った 」



聞き返そうとした瞬間、
彼女は息を呑んで、笑ったような気配を見せた。



「 内緒 」



それきり黙りこくり、
俺をそれまでより少し強く抱きしめた。


髪がかすかに揺れて、
甘い匂いがひとつ深く吸い込まれる。

俺は眠気に引き戻されながらも、
胸の裏側がざわついて止まらなかった。



こんな日々は、これからも続いていく。
根拠もなく、そう思い込んでいたはずなのに。



遠くの街灯の光が、
カーテン越しにやわらかく瞬いている。


手も声も確かにここにあるのに、

なぜだか、その輪郭だけが
少しずつ透けていくような感覚があった。


抱きしめた背中を、指先で強く確かめる。
温度は、たしかにここにある。

そう自分に言い聞かせるうちに、
視界がゆっくり滲んでいった。


ーー 静寂と温もりだけが重なり、
夜は、深く深く沈んでいく。






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