第8話

同級生は十番隊隊長
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2025/10/12 16:05 更新

「十番隊に?私が?え、嫌です。」


 五番隊隊舎のお昼時。別に雛森副隊長の困った顔が見たくて言ってるんじゃない。本心からそう思ってるんだ。十番隊に異動だなんて絶対に嫌、と。


「どうしてか教えてくれる?正当な理由じゃないと、。」
「寒いからです。」
「へ?」
「日番谷隊長と任務に行くと寒いからです。」


果たしてこれが正当な理由になるのか分からないけど、自分の意思は伝えた。更に困ったように笑う雛森副隊長。ごめんなさい。


「私が日番谷隊長と任務に行かない、執務中も顔を合わせないならいいですけど。」
「そういう訳にはいかないんじゃないかな?この異動で三席に昇格だし、あなたの名前ちゃんの戦闘能力も買われてるわけで、隊長副隊長には同行することは増えるかも……。」


 なんてこった。昇格か、いい響き。…じゃなくて、本当に嫌なもんは嫌だ。隊長副隊長ってとこの隊長に問題があるんだ。


「院生の頃同級生だって聞いてるし働きやすいと思ったんだけど。」
「なおのことですよ。お互いただの教室にいた話したことない相手ならまだしも。」
「何があったの本当に。」


 説明させてもらおう。雛森副隊長の言うように院生の同級生である日番谷冬獅郎と私は、討伐の仮実践の授業で二人一組の相棒になったのだ。この時はまだ良かった。まだお互い初めましてな会話を一言二言言って作戦を練ったところまでは。

 そして、練習とはいえ、さあいよいよ討伐だと意気込んでいたときだった。空中にずっと立つことが出来なかった私(本気でもっと瞬歩とかの練習しとけば良かったとこの時思ったよね)はふっと落ちていく。本当に、「あ、これ大怪我する。」そう覚悟を決めながら叫んで落ちていく私を、なんとまあ日番谷冬獅郎くんに背中から手を回される形で助けられたじゃありませんか。
 そう助けて貰った。それはいい。ただ問題があった。問題というのは彼の、


「あ。」
「…えっ?」


手の位置だった。
片手はお腹、片手は何故か私の袴の肌着の中に突っ込んでいるじゃありませんか。直に胸を掴まれているではありませんか。

 奇跡的に幸運なすけべを成し遂げた日番谷冬獅郎を私は顔を真っ赤にしながら頭だけ後ろへ振り向いて見ると、彼は彼で状況がまだ理解していないのか、確認するように、モミモミと。


「ぎゃあああっ!」
「っ、暴れるな!」


霊力霊圧の調整が崩れ、日番谷もろとも開けた所に落ちてしまった。これがどうなったと思う?

 肌着の内側まで片手を突っ込んでいた彼は着地の際、地面に手を着いたのだ、あろう事か布越しに。すなわちそれは私の前が大きく開くということ。仰向けに横たわる私の胸は露になってそれを凝視する形で日番谷が跨っていて、練習用の虚擬きがうようよとこっちに近づいていて、それを様子がおかしいと私達を心配して講師の方たちもワラワラとやってきて。


「あああああああああっ!!」
「す、すま、ぶべっ!」


そんな中、私がみんなに自分の乳を見せながら、跨る彼に力の限り平手打ちをするという地獄絵図が完成したのだった。

 その後、授業中にドスケベ行為を至そうとしたのでは無いかと疑われ、反省文と出席停止処分を食らい、それからの二人は、前以上に互いを避ける仲になったのだ。

 けれどこんなこと雛森副隊長に言いたくない、言えるわけがない。そりゃ「寒いから」って理由よりこの過去の出来事の方が、断るための正当な理由に相応しいのかもしれない。ただ、私にも羞恥心くらいある。日番谷がどう思われようが知ったこっちゃないにしろ、私にとって思い出したくない黒歴史を雛森副隊長が聞いたらどうなる。もし言ってしまえば絶対に、可哀想なものを見る目で私を哀れむに決まってる。それはもうこれからずっと。ああ、勘弁。


「あなたの名前ちゃん、平子隊長ともお話して決めよう。ね?」
「……はい。」


気は進まないが、話し合いならやってもいい。働いてるんだしこんな我儘通せないのは百も承知。大人気ないと思われてもいい。それでも最後まで抗ってやる。



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「本日から十番隊に配属になりました。あなたの名字あなたの名前です。よろしくお願いします。」


結果、負けた。
最後まで駄々を捏ね、「わだじのごどぎらいになっだんでずかっ?」と子供のように泣き喚きながら平子隊長に縋り着けば、何が面白いのか平子隊長は大笑いし、ここぞとばかりに映写機で滑稽な私の姿を撮りまくって私の必死な訴えの幕は落ちたのだった。

 そんな訳で隊首室に挨拶に来たら、胸のおっきなお姉さんがいらっしゃってですね。うん、噂で聞いてたたわわに実ったお胸を持った副隊長さんですね、なんかすごい。そしてその隊長が、


「ああ、よろしく頼む。」


にっっっっくき日番谷隊長殿なんだよね。


「隊長とあなたの名字って同級生なんですよね?仲良かったんですかー?」
「……べ…つに………。」
「……な…にも………。」


松本副隊長の質問に二人して固まった。仲が良かったどころではない。寧ろ、触れぬが仏。互いに無関心でいることを貫いた学院生活だったはず。

………にしても。


「松本副隊長、日番谷隊長にはもう胸、触られました?」


 満面の笑みで松本副隊長に質問した途端、日番谷隊長は凄い勢いで立ち上がり顔を真っ赤にし、驚いたようにわなわなと私を見た。なーに焦ってんだか本当に。


「え?出会いから私の谷間にどーんっ、よ!」
「は?」
「松本ぉっ!」


なに?出会いからって。日番谷ってそうなの?誰彼構わず胸に飛び込む性癖でも持ってんの?え、じゃあ私の時ももしかして、。
 
 有り得ない、と言わんばかりの視線を日番谷に向け、うわー、なんて思いながら引いてしまう。いや、引くでしょ。


「あなたの名字、ご、誤解だ。」
「何がでしょーか。」
「頼む、勘違いしないでくれ。」
「さすがに無理ある。」


私と日番谷のやりとりを松本副隊長は興味深そうに眺めては、にやーっと顔を歪める。


「もしかして隊長、あなたの名字の胸、。」
「どうでもいいだろうがっ、くだらねー!」
「くだらない!?くだらないですって!?私の胸をみんなに見せておいてっ?」


途端に訪れた静寂。だけど松本副隊長の顔は何故か喜びに満ち溢れてた。これはもう逃れられない。そう悟る。


「たーいーちょーおーっ?」
「うっせーーーーー!!!」


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 ああ、挨拶しに行っただけなのに一時間も拘束されてしまった。けれど洗いざらい私の黒歴史を吐かされたのだ。感覚として何時間も経ったように途方もない時間にさえ感じた。


「口止めしたけど大丈夫かな……。」


そうボヤくも、言ってしまったものは仕方がない。何も無いことを祈るばかりだ。日番谷も日番谷だ。結局胸で人を選んでるんじゃないの?


「出会いで、どーん、か。」


乾いた笑いしか出てきやしない。上に立つ人間は変人しかいないのかもしれない。え、やだなそんな瀞霊廷。


「あなたの名字。」


覚えのある声にしらーっとした目で振り向くと、物凄く気まずそうな我が隊長様がいらっしゃるじゃん。


「あ、変人隊長だ。」
「あ?」
「あ、間違えた。日番谷隊長だ。」
「てめぇ態とだろ。」


態とじゃない。考えていたことがポロッと出てきたのだ。決して態とじゃあない。


「何か用ですか?」
「……十番隊に来てくれて感謝する。ありがとう。」
「えーと、…はい。」


さっきの挨拶の続きをしたかったのか、真っ直ぐに感謝された。
 やっぱり彼は真面目だ。学院の頃もそうだったけど、真面目で、何にしても真剣に取り組んでた。凄いなー、なんていつも見てたな。


「俺の誘いに乗ってくれるとは思ってもみなかった。」
「えーと、…はい?」


え、今なんて?日番谷の誘いとはいったい何?相当おかしな顔をしていたのか、日番谷はこれまた気まずそうに言葉を続ける。


「雛森から聞いてない…のか?」
「何ヲデショーカ。」
「俺がお前を引き抜きたい、って申し出た事だ。」


 ああ、神様。なんでこんな意地悪するの。私何かした?思ってもみない事に頭を抱えた。なんでどうして、だけがぐるぐる頭を駆け巡る。


「日番谷、なんで私を引き抜いたの。」
「惚れた女を傍に置きたいと思ったからだ。」
「へぇー、惚れた女をねー。……ん?」


 待って。様子がおかしい。惚れた女?……というのは話の流れから、私ってことにならない?いやいや、んなわけないって。絶対にないって。あっちゃダメだって。


「ねえ、内容に追いつけない。助けて。」
「だから俺はずっとお前に、あなたの名字に惚れてるんだ。」


 本当に誰か助けて。私はどうしたらいいのでしょうか。だっていつそんな要素ありましたか?え、私の胸おっぴろげ事件がきっかけ?だとするとコイツいよいよヤバいよ。


「日番谷落ち着いて。」
「…ああ。というかお前が落ち着いてくれ。」
「いくら女性経験が無かったからって、本物の胸を目の当たりにしたくらいで惚れてたら、ただの馬鹿だよ。」
「…本気でお前落ち着いてくれ。冷静に考えろ。」


 至って冷静だ。そうだそうだ。冷静に考えた結果なんだ。そもそも何。好きな人を傍に置きたいがために職権乱用したのかこの人。凄いことしてくれるね。


「そんな理由で惚れるわけないだろ。」
「じゃあどの場面で惚れるわけ。」
「……同じ組になった時だ。」


 同じ組になった時?学院生活二年目で日番谷とは同じ組になった。とくに何かあった訳でもないし、特段特別なことも無かった。日番谷とだって話した事なんか、───あ。

 急に思い出した。振り分けられた教室に入った時、窓の外を着席して眺めていた日番谷を、ヒソヒソと陰口を叩く生徒達がいて、どうしようもない内容に私は「ねえ、ダサい事してないで席に座ったら?」と突っかかったことがある。けれど、日番谷はずっと窓の外を眺めてたし、少し離れた所だったから気付いていないはず。


「知らないと思うが、お前に助けられた気がしたんだ。」
「……うん。」
「“ダサい事するな”ってあいつらに言ってるあの時のお前、本当に格好良くて目を奪われた。」
「あ、やっぱりそれか。」
「思い出したか?」


いつもの事で気にしてなかったをだがな、なんて、ふっと小さく笑いをこぼす彼は、何かを諦めてるように見えた。


「絶好の機会だと思ったんだぜ?二人一組の演習。」
「そ、か。」
「なのにあんな事になっちまって。距離まで今まで以上に出来て、嫌われたとすぐに理解できた。」


 初めて聞く彼の想いに、私はとんでもなく胸の鼓動がうるさいのを感じた。なんなら少し嬉しいとまで思ってしまった。


「お前のさっきの言動や態度でまだ怒っているのは伺えた。…あの時は本当にすまん、───。」
「も、いいよ。そんなに謝らないで。」


 なんだろうか、互いがモジモジしだして話が上手くまとまらなくなってきている。
 日番谷は私にどうして欲しいのだろうか。あの時の反省はしているようだし(院の時からしてただろうけど)。ま、忘れないけどね。



「だからあなたの名字。」
「は、はいっ。」
「振り向かせてみせる。また改めて想いを伝える。」
「は、……はい。」
「それまでは一隊員と一隊長だ。」


 正直拍子抜けだ。このままお付き合いの告白に入ると思ったんだけど、現状私が日番谷を受け入れないと思って告白を諦めたみたいだ。まあそうだよね。ただ、「付き合ってくれ」って言われていたら、私はどうしてたかな。
こう考える時点で、この乳星人と恋仲になる可能性はあったって事で、心の中で「日番谷本当に絶好の機会逃してる」って少し残念な気持ちになった。次回想いを伝えてくれるのはいつなのだろうと、首を長くして待ってみることにしよう。




 ───けれど。


「松本副隊長の谷間に飛び込むくらい日番谷の胸好きを許せる女になってからかな。」
「まて、本当に誤解だ。」




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