第21話

第1章 第18話 最後の扉の鍵
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2024/05/06 04:25
玄関ホールでスマイル君は立ち止った。

ここで何を始めるつもりなのだろう。

スマイル君の一挙一動を黙って見守る。

スマイル君は玄関の扉の前に、
放りだしたままになっていた、
木製の人形を拾い上げた。

スマイル
スマイル
赤色の宝石を見つけたときに、
ピンと来たんだ。
玉の直径、
この人形のくぼんだ部分の大きさと、
ほとんど変わりなかったんだ。
ほんのちょっと目にしただけで、
そんなことまでわかっていたのか。

改めてスマイル君の、
人間離れした能力に驚いてしまう。
スマイル
スマイル
人形の背中にも上下逆のハテナがあった。
って事はこの人形も、
出るために必要な物だと考えるべきだ。
って事は…。
ポケットから取り出した2つの玉を、
スマイル君は人形の顔のくぼみに押し込んだ。

玉は二つとも、
隙間なく顔に収まった。

それまで不気味にしか思えなかった人形が、
目を手に入れたことで随分を可愛らしい。

いや、変化はそれだけではなかった。
人形
<おめでとう、皆よく頑張りましたね。>
ゲームオーバーであることを口にしていこう、
ずっと沈黙を守り続けてきた人形が、
再び声を出した。
人形
<ここまで来たら、
出口はあともう少しです。
矢印に従って最後の扉に進んでください。>
壁に矢印が映し出された。

再現時間をオーバーした時は、
キッチンの非常口の方を示していた矢印が、
今はパネルのあった扉に向いている。

やっぱり、
あの扉が屋敷の外に繋がっているらしい。

でも扉を開けるパスワードは、
相変わらずわからないままだ。

どうすればいいんだろう…。
スマイル
スマイル
…あ。
スマイル君が短い悲鳴を上げた。


いつも取り乱す事のない彼にしては、
随分と珍しい反応だ。

人形がゆっくりと右に回転し始めた。

人間だったら、
ありえない方向に首がねじ曲がってる。

…大分、不気味…。

ちょうど一回転したところで、
人形の頭は空が外れて、床に転がり落ちた。

シャケ君がそれを拾い上げる。
シャークん
シャークん
…何か入ってる。
頭部は内側からくりぬかれていて、
そこに紙切れが入っていたらしい。

シャケ君は人差し指を差し込んで、
その紙幣を引っ張り出した。
スマイル
スマイル
多分、その紙に最後の問題が、
書いてあるんだと思う。
スマイル君が口にして言葉はたいてい正しい。

だから今回もその通りになるのだろう、
と僕は信じて疑わなかった。

最後の問題もスマイル君は、
あっさり解き明かして、
扉はすぐに開くはずだ。








でも今回は少し様子が違っていた。

紙幣を広げたシャケ君の表情が曇る。
スマイル
スマイル
どうした?
シャケ君の手元を覗き込んだ、
スマイル君の眉の間に深いしわが刻まれた。

スマイル
スマイル
困ったな…。
顎に手を当てて、
スマイル君は深く長い溜息を吐き出した。
Nakamu
Nakamu
どういうこと…?
Nakamu君も紙幣を見つめて、
不安そうに尋ねていた。
スマイル
スマイル
いや…難しいのなら、
頑張っ知恵を絞り出せばいいだけ…。
しかもむしろやりがいはあるんだけど…
どういう問題なの…?

僕はスマイル君に尋ねた。
スマイル
スマイル
問題が無いんだ。
スマイル君がシャケ君から紙幣を貰い、
僕に見せてくれた。
Nakamu
Nakamu
<イベント開催時はここに最終問題を掲載>…。
そこに書かれた文章を、
不安そうにNakamu君は読んでくれた。
シャークん
シャークん
まだ問題が出来てないのか…?
スマイル
スマイル
問題がなくちゃ、
答えようがない…。
シャークん
シャークん
でも鍵がかかってるって事は、
回答があるって…事だろ?
スマイル
スマイル
そういうことになるよな。
でも…これじゃ何もできない。
ようやく最後の扉にたどり着けたのに、
開けることが出来ない…?

…そんな…そんな事って…。

僕はいてもたってもいられなくなり、
パネルの取り付けられた扉に走った。



嫌だ…。

このままお父さんに会えなくなるなんてッ…!




僕は扉に体当たりを繰り返した。

当然ながらびくともしない。

でも諦めるつもりは無かった。

何度も何度も体当たりを繰り返す。


肌が擦り剝けて、
床に血が零れ落ちたけれど、
僕は辞めなかった。

シャークん
シャークん
おッ落ち着いて…あなた…。
シャケ君が僕の事を止めた。

僕は必死に抵抗したけど、
シャケ君の力には敵わなかった。
シャークん
シャークん
…今までの答えを打ち込んでみたら?
その言葉を聞いて、
Nakamu君がパネルの前に顔を近づけた。
スマイル
スマイル
なるほどな、
やってみる価値はありそうだ。
Nakamu
Nakamu
…じゃあ赤色の奴が入ってた方は?
スマイル
スマイル
1231。
Nakamu君はスマイル君の答えたとおりに、
数字を打ち込んだ。

パネルに<1231>と表示された。


…あれ…?

僕の心臓は大きく跳ね上がった。

1231…この数字って…。

エラー音が鳴り、
ドアは開かなかった。

Nakamu
Nakamu
青色の方は?
スマイル
スマイル
0813だな。
即座にスマイル君は答えた。

パネルに<0813>と表示された。

結果は変わらず、
扉は開かなかった。

…やっぱりそうだ…。
Nakamu
Nakamu
0813って…今日の日付?
スマイル
スマイル
あぁ…言われてみればそうだな…。
でも…たまたまじゃないか?
間違いない。

口の中が乾いてカラカラだ。

よほど、
僕は動揺していたみたいだ。
シャークん
シャークん
だッ大丈夫…?
呼吸荒いけど…。
シャケ君が心配そうにこちらを見た。

僕はシャケ君にしがみついた。
シャークん
シャークん
どどどッどうした!?
僕の体を持ち上げて!

シャケ君にそう訴えた。

パスワードが分かったんだ。
小さな僕はパネルに手が届かない。
だからお願い…!

僕をパネルの傍まで持ち上げて!
シャークん
シャークん
なッなんなんだよ一体…?
シャケ君は僕を抱きかかえた。

パネルが目の前に見えた。

僕は体を伸ばして、
数字のボタンをゆっくりと押していった。




0813…8月13日、今日はお父さんの誕生日

1231…12月31日、お母さんの誕生日

これが偶然であるはずない。

お父さんはあえて、2人の誕生日を、
この脱出ゲームに取り入れたんだ。

だとしたら…二つのコードから…。









最初は<0>、次は<3>、
続いて<1>、最後に…<0>





3月10日、砂糖の日、

これが僕の誕生日。










ロックの外れる音が聞こえた。
Nakamu
Nakamu
えッ…嘘ッ…!
シャークん
シャークん
凄いじゃん!あなた~!
シャケ君は僕の頭をくしゃくしゃと撫でた。
スマイル
スマイル
…急ごう。
スマイル君が扉を開ける。

扉の奥には地下に続く階段があった。

土の香りがした。

屋敷の外に繋がってるのは間違いない。

僕はスマイル君の横をすり抜けて、
真っ先に階段を駆け下りた。

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