縋るように呼んでも、二人は視線を逸らして、互いに手を握り合っている。その仕草が、ひどく遠いものに見えた。
母の声は泣いていた。父も、唇を噛みしめている。
理解できなかった。どうして、引き止めてくれないの。
あれだけ甘やかしてくれたのに。今目の前にいる二人は、知っているはずの両親なのに、どこか別の生き物みたいに見えた。
腕を引かれて、家を出る。 振り返っても、追いかけてきてはくれなかった。胸の奥が、ぐしゃりと潰れる音がした。
お屋敷は、静かだった。広くて、白くて、息が詰まるほど整えられている。
連れて行かれるまま、何も分からないまま、着ていた服を脱がされた。
代わりに用意されたのは、真っ白な和服だった。
袖を通され、帯を締められ、髪を整えられる。綺麗だけどあの頃の記憶がフラッシュバックして震えた。
人目がいない隙に、廊下へと逃げ出した。
息が苦しい。心臓がうるさい。もう、誰でもいい。 誰か、助けて。
そのときだった。
向かい側の窓に白い影を映った。振り向くより先に、私は後ろからその人に抱きついていた。
震える指で、衣を掴む。顔を押し付けて、嗚咽をこらえきれずに泣いた。
だって似ていた。白い短髪で真っ白い肌で。それ以上に考える余裕なんてなかった。
藁にでも縋るしかなかった。
優しい声が、頭上から落ちてくる。
次の瞬間、やんわりと腕を外された。拒絶じゃない。でも、抱き返してもくれない。
ぽん、と頭を撫でられる。手ぬぐいで、頬を軽く押さえられて、涙を拭われる。
子どもをあやすみたいな、低くて柔らかい声。
恐る恐る、目を開ける。
そこにいたのは――シロくんに、そっくりな人。
でも、違う。 もっと背が高くて、肩幅が広くて、大人びている。
頬に、そっと手が添えられる。
「今夜、迎えにいくから」
心臓が、どくんと跳ねた。
穏やかに、諭すように。
こんな低い声してたっけ。
シロくんなの?
その人はもう一度だけ優しく微笑んで、私に何も言わせないまま去っていった。
残された廊下は、やけに静かだった。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!