第46話

見放された
317
2026/01/16 15:51 更新
あなた
お父さん!お母さん!?
縋るように呼んでも、二人は視線を逸らして、互いに手を握り合っている。その仕草が、ひどく遠いものに見えた。
母の声は泣いていた。父も、唇を噛みしめている。


私たちのためでもあるけど……あなたのためでもあるの
理解できなかった。どうして、引き止めてくれないの。


あれだけ甘やかしてくれたのに。今目の前にいる二人は、知っているはずの両親なのに、どこか別の生き物みたいに見えた。


腕を引かれて、家を出る。 振り返っても、追いかけてきてはくれなかった。胸の奥が、ぐしゃりと潰れる音がした。




お屋敷は、静かだった。広くて、白くて、息が詰まるほど整えられている。




連れて行かれるまま、何も分からないまま、着ていた服を脱がされた。
代わりに用意されたのは、真っ白な和服だった。


袖を通され、帯を締められ、髪を整えられる。綺麗だけどあの頃の記憶がフラッシュバックして震えた。




人目がいない隙に、廊下へと逃げ出した。



息が苦しい。心臓がうるさい。もう、誰でもいい。 誰か、助けて。




そのときだった。



向かい側の窓に白い影を映った。振り向くより先に、私は後ろからその人に抱きついていた。




あなた
たすけて、ッ
震える指で、衣を掴む。顔を押し付けて、嗚咽をこらえきれずに泣いた。
だって似ていた。白い短髪で真っ白い肌で。それ以上に考える余裕なんてなかった。


藁にでも縋るしかなかった。




五条悟
五条悟
……あー、ちょっと
優しい声が、頭上から落ちてくる。
次の瞬間、やんわりと腕を外された。拒絶じゃない。でも、抱き返してもくれない。
ぽん、と頭を撫でられる。手ぬぐいで、頬を軽く押さえられて、涙を拭われる。
五条悟
五条悟
ほら、落ち着いて
子どもをあやすみたいな、低くて柔らかい声。
五条悟
五条悟
よーく見て。僕は、だぁれ
恐る恐る、目を開ける。




そこにいたのは――シロくんに、そっくりな人。

でも、違う。 もっと背が高くて、肩幅が広くて、大人びている。




五条悟
五条悟
大丈夫
頬に、そっと手が添えられる。



「今夜、迎えにいくから」



心臓が、どくんと跳ねた。



五条悟
五条悟
今は大人しくしてて。周りの言うことに従ってくれれば、何も悪くされない
五条悟
五条悟
僕がここにいるのも、ちょっと用事があるだけだから。それまで、ちゃんと待ってて


穏やかに、諭すように。



こんな低い声してたっけ。






シロくんなの?





その人はもう一度だけ優しく微笑んで、私に何も言わせないまま去っていった。





残された廊下は、やけに静かだった。

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