疲弊した身体を休ませるように、大の字になって床に寝転がる。ひんやりとした感触が肌に触れると同時に、眩しい蛍光灯の光が目を突き刺した。
独房の扉に付けられた小窓からしか外部から差し込む光はないけれど、一応内部にも照明はあるあたり塔の設計者の良心は感じる。まぁ、光があったからと言ってここから出られるわけではないのだが。
同じ独房の隅で三角座りをして、うずくまっていためめさんがもぞりと動いて顔を上げる。珍しく彼女は、無理やり作ったような笑みをにへらと浮かべていた。顔色の悪い笑みに、思わず眉をひそめてしまう。
雨の国で捕まり、この断罪の塔に連行されてから数日。
他のレジスタンスの居場所を聞き出すという名目で生かされている俺たちは、熾烈……というわけでもないが、尋問だか拷問だか、そんなものを受けていた。
殴られたり蹴られたりした箇所が痛むのはもちろんのこと、冷たい床で寝たのもあって、身体の節々が痛む。
しかしこのまま寝ているわけにもいかない。しんど、と独りごちながら、どうにか身体を起こした。
俺と同じ目に遭っているはずのめめさんが座っている中俺だけ寝転がっているというのは、どうにも落ち着かないということも理由の一つである。
そのとき、唐突にザザッと何かが擦れるような音がしてめめさんの方を振り返った。
彼女の姿を見て、音の原因を理解した。
さっきまでうずくまっていた彼女は、今は完全に部屋の角に身体を預けている。さっきの擦れるような音は彼女の服と壁が擦れた音だったのだろう。
しかし、何よりも目を引くのは彼女の表情だった。
顔は若干土気色に染まり、両目は閉じられていて、呼吸は心なしかいつもよりも荒い。
そこまで目立つようなものではないが、普段からめめさんと接している人なら気づくような、そんな不調が如実に彼女の身体には表れていた。
思わずそばに寄って声をかけようと立ち上がると、不意に独房の外から騒がしい喋り声が聞こえてくる。
ここでは一つの情報が大きな意味を持つ。独房の外の妖魔兵の会話を聞き逃さないように、動きを止めた。めめさんも立ち上がって、独房の扉に静かに耳をつける。
妖魔兵の声は徐々に遠ざかり、最後には何も聞こえなくなっていく。しかし、今の会話だけでかなり重要な情報を得ることができた。
……御茶屋一族という存在は既にこの塔の中にいるらしいが、本来俺たちの処刑を執行することのできるという魔族裁判官は現在ここにいない。
つまり、時間的猶予は思った以上にあるということだ。
……逃げ出せれば最善。そうでなくとも、ウパさんとラテさんが完全に難を逃れるまで耐え抜けば勝ち。
そう考えながらめめさんと目を合わせると、突如独房内部にまで響く怒鳴り声が鼓膜を叩く。
その言葉が響くや否や、にわかに塔全体が騒めき出す。
実際、俺たちにとってもその知らせは信じられないものだった。この断罪の塔の警備の厳重さは、ここまで連行され、閉じ込められた俺たちもよく知っている。
けれど、めめさんはまるで予定調和かのように、口元に微かな笑みを浮かべた。
ありえない。と続けようとした瞬間、独房の外からガンガンガンと扉を強く叩かれる。
今日はなんだかやけに騒がしい。いったい何があったんだと思いながら小窓から外を覗こうとすれば、小窓に顔を近づけて中を覗き込んでいる瞳と見事に目が合った。
ミントグリーンとコーラルピンク。二色で彩られた瞳が俺たちを見てパッと輝く。
後ろに誰かがいるのか、彼女はその誰かに声をかける。そして嗜めるような声が聞こえたかと思うと、彼女はもう一度こちらを見て、にっこりと微笑んだ。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!