ころんside
夢を見た。あなたが連れ去られる夢だった
僕は必死に手を伸ばそうとしたけど、殴り蹴られた僕は体が動かなかった
「待って」って、「行くな」って言った
なのに、あなたは足を止めようとしない
だけど、一度だけ足を止めてこちらを振り返った
『また此処で…お話…しようね』
いつものように笑顔を作って僕にそう言い、また歩き出した
嫌だ。行くな。戻ってきて。あなた…!
手を伸ばしたところで、僕は目を開いてガバッと起き上がった
…此処は、アジトの僕の部屋だ
体が痛む。腕と脚にはかすり傷、頬には殴られた跡があった
その上に絆創膏や包帯が巻かれている
その傷を見て、僕は下を向いた
さっきのは夢なんかじゃない
夢であってほしかった
夢で終わらせたかった
あなたは連れ去られた。僕のせいで
僕は痛む体を無理矢理動かし、部屋を出た
アジトの中を歩いていると、偶然さとみくんと出くわした
さとみくんは驚きながらも僕の体を支えた
さとみくんの言葉に被せるように僕はそう言った
さとみくんは僕の言葉を聞いて目を見開く
僕はそれを気にせずに言葉を続けた
僕が大きな声を出してそう怒鳴ると、さとみくんは黙った
絞り出すように出た声は掠れて、震えていた
さとみくんは僕を支えていた手をぶらんと下に降ろす
僕はさとみくんから一歩離れた
下を向いていてさとみくんの表情は見えない
だけど、何となく、辛そうな顔をしているのだろうと予想がついた
さとみくんは驚いたような顔をして顔を上げた
…やっぱり、僕の予想通りだ
僕はそう吐き捨てるように言ってさとみくんの横を通り過ぎて行った
体が痛くて、動くとズキズキと痛む
それでも僕は行く。あなたを助けるために
僕は今、負の感情でぐちゃぐちゃだ
憎悪に塗れ、怒りで燃え、哀しみで崩れ落ちそうだった
僕はアジトを出てひたすら歩いた
行き先なんて分からないが、とにかく歩いた
息を切らして、誰もいない道で立ち止まる
どんなに歩こうと思っても体が中々言うことを聞かない
むしろ段々と動きにくくなっていった
無気力になった僕は、その場に座り込んでしまった
そんな僕の前に、とある人物が姿を現した
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。