第27話

第26章・赤線の向こうで、まだ息をする
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2026/02/11 23:39 更新
赤い線を越えたあと。
部屋は、相変わらず静かだった。

変わったのは――あなたのほうだ。
あなた
……戻れない感じ、する
アラスター
アラスター
『HAHAHA!!
 勘のよろしいことで』


冗談めかした声。
けれど、否定はしない。

壁の時計が、ぎ、と音を立てた。
止まっていたはずの針が、ほんの少しだけ動く。
あなた
……時間、動いてる
アラスター
アラスター
『ええ。
 貴女が“選んだ”ので』
あなた
選んだ覚えは、ないんだけど
アラスター
アラスター
『無意識ほど、正直な選択はありません』
部屋の奥の扉が、ひとりでに軋む。
隙間から、赤い光。
あなた
……あれは?
アラスター
アラスター
『次の場所』
あなた
行かなきゃ、だめ?
アラスター
アラスター
『いいえ』
即答。
アラスター
アラスター
『立ち止まることも、立派な進行です』

その言葉に、少しだけ救われる。
深く、息を吸う。
あなた
……私さ
あなた
前は、止まるのが一番怖かった
アラスター
アラスター
『ほう』
あなた
考えちゃうから
あなた
落ちるなら、一気の方が楽だって……
言ってから、後悔した。
でも、もう遅い。
アラスター
アラスター
『........』
笑わない。
彼が黙るのは、珍しい。
アラスター
アラスター
『貴女は、よく落ちる話をなさいますね』
あなた
……うん
アラスター
アラスター
『ですが』
一歩、近づく。
アラスター
アラスター
『今は、立っています』
確かに。
床は、冷たくて。
足の裏に、ちゃんと感触がある。
あなた
…立ってるね
アラスター
アラスター
『えぇ』
低い声。
アラスター
アラスター
『それだけで、本日は上出来です』
扉の光が、少し弱まる。
急かされていない。
あなた
アラスター
アラスター
アラスター
『はい』
あなた
もし、私がまた……屋上に戻りたくなったら
一瞬。
空気が、張りつめる。
アラスター
アラスター
『……その時は』
言葉を選んでいる。
珍しく。
アラスター
アラスター
『私は、貴女を止めません』
胸が、きゅっと縮む。
あなた
......え
アラスター
アラスター
『ですが』
すぐ、続く
アラスター
アラスター
『“戻りたい理由”を、聞きます』
視線が、逸れない。
アラスター
アラスター
『それが、逃避か』
アラスター
アラスター
『それとも、確認か』
あなた
……違い、ある?
アラスター
アラスター
『えぇ』
短く、断言。
アラスター
アラスター
『確認であれば』
アラスター
アラスター
『貴女は、もう落ちません』
心臓が、どくんと鳴った。
あなた
……よく、分かんない
アラスター
アラスター
『今は、それで結構』
彼は、扉の前に立つ。
取っ手には、触れない。
アラスター
アラスター
『開けるのは、貴女です』
あなた
……一緒に、来る?
アラスター
アラスター
『えぇ』
即答。
アラスター
アラスター
『契約ですから』
HAHAHA!!
いつもの笑い。

でも。
その声は、少しだけ低くて。

私は、扉に手をかけた。

冷たい。
でも、震えてはいない。
あなた
……じゃあ、行くね
アラスター
アラスター
『どうぞ』
扉が、開く。

赤い光の向こう。
まだ知らない場所。

――それでも。

背後に、気配がある。
それだけで、足は前に出た。

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