月
月は満ちる。零れ落ちる。やがて満ちる。
満ちた時を満月といい、零れ落ちた時を新月という。
まだ大人になりきれていない中途半端な俺は、随分と重いものを背負ってしまった。
あの日は確か、月が満ちていた。
最も難関の軍大学に夢も持たずに入学して、なんとなく寮でひとり暮らしていた。べつに勉学が出来ない訳じゃないし、かといって戦闘が出来ない訳でもない。
要は俺は平凡ということだ。つまるところ、軍にこれから入隊しようと役に立つかどうかはわからない。
だから、弱肉強食という言葉が良く似合う「いのちのうばいあい」にこれから参戦するのかと思うと気が滅入っていた。
たぶん、最前線を這いずり回らなければならない。最悪捨て駒になるかもしれない。いや、かもじゃない。俺は捨て駒になる未来しか残されていない。そんな風に考えて、あと何年生きれるかと、あぁ4年かと。
別に自分が死ぬのが怖いとは思わない。人殺しに加担するくらいなのだから、そこらの感情は振り切らないとやっていけない。でも。
今死へ着々と近づいているのならば、俺の人生は意味があるのだろうか。
答えは、NO以外出そうにも出せなかった。はじめて自分を惨めに思ったような気がする。
そう。
思考の沼に沈んだ。
刹那、遠くで控えめな爆発音が聞こえる。サイレンが鳴っていないからひとまず侵入者の可能性は除外。
……次に聞こえるのはナイフの音。かきん、かきん。ひょっとして音が小さいのは「遮音」の影響か?
ぐちょ、嫌な音が聞こえて、液体が滴る音が廊下に響いているのが聞こえて。ぱりん、同時にバリアの割れる音がした。
詠唱は聞こえない。誰の仕業だ。外に出ようとした。見習いといえど仮にも兵士だ、侵入者ならばそれ相応の罰を与えねば。
ドアノブに手をかけた。
圧倒されるほどの殺気を感じた。
動揺して瞬きをした。
次に目を開けた時、目の前に見えたのは次期革命軍筆頭候補メンバーと名高い紫色の彼だった。
彼は何も言わずに大きな魔法を俺に向かって連発してくる。理性を残しているのか知らないが物には影響していないようだった、好都合。
片付けるのは面倒だ、まぁミニマリストだからそこまで物は無いけれど。
しかし、何故?
顔を合わせる。
目が合う。
白目の部分は黒く染まり、瞳には奥も見据えてくるような赤黒い深淵が広がっていた。突如、恐怖。殺気。
____悲愴。悲哀。焦燥。
にぃ、上がる口角。何がおかしいのか目は釣り上がり、矯正な顔立ちは煽るような憎たらしい表情を向け、向けて、
暴走したんだなぁ、と他人事かのように独りごちた。
何で暴走しているのかは知らない。
けど。
…暴走している時の記憶は通常状態に引き継がれないらしいよね。
俺の脳天に狙いを定めて、魔法で生成された闇の槍で突き刺そうとフルスイングしてくる彼に追いつくように、慌てて声で詠唱をなぞる。
彼の動きは不自然に止まった。やがて白目に虚ろな紫色の瞳を添えた普段通りの視覚を後ろに向け、操られているかのように自室へと歩いて戻って行った。
なるほど、どうやら大分面倒くさい役割が回ってきてしまったらしい。なんて。
【Arrêté】
特定の人(最も強い魔法の区分となる「幻想魔法」の使い手)の暴走を止める人の事を指す。別名、“制止者”。
彼らは月が満ちる時と零れ落ち切った時に暴走する。
その度、赤黒い血肉で満ちる。満ちて、月は笑う。月は嗤う。死体は跡形も無くなり、殺められた存在ごと我々の記憶から抹消され、また再びこの大地は廻るのだ。
その輪廻に取り込まれなかったある意味哀れな強き者は、本人が死に絶えるか当事者が全てに気づくまではそれに関して口に出すことは出来ない。
初投稿だよ。初めまして、著者のてくのろじーです。てくのさんとでもお呼びください。
ATTACHMENT、始まります。今更ですが、main:きんとき・sub:スマイルの真面目なファンタジー軍パロ小説です。
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。