ぎゃあぎゃあと喚く。うるさいと言われ、見張り役の男から冷たい視線を向けられた。顔はよく見えなかったが、昔の知り合いであることは理解した。
大事なのは実験体で、倫理じゃない。
大事なのはお前の技術で、人間性じゃない。
大事なのは体裁で、感情論じゃない。
なんどもなんども近くで繰り返した。
違う、こんな場所に帰ってきたかったんじゃない。違う。違う。僕はもうこんな所から足を洗ったはずで。だから手紙だって送って!罪滅ぼしのつもりだった。もう金輪際関わらないと。
それに、もうずっとこのままでもいいと思った。そう思える場所ができた。僕の為だけじゃない。みんなの為だ。逃げなきゃいけない。どこか。こんな狂った場所からは。
実験の後遺症というのは、重たい。時に身を滅ぼし、心を焼き尽くす。
それは研究者という立場で関わった僕でも同じだった。
よくあの子の夢を見るんだ。孤独な女の子の夢。もうあの研究室には戻らないと誓った。血の匂いが染み付いている、汚い場所。
あの子の笑顔が脳裏に浮かぶ。
笑顔で僕に話しかけてきてくれた。実験を主導しているのは僕なのに。僕がいなければこんなに苦しむこともないだろうに。
彼女は綺麗な黒髪だった。
彼女との会話はすべて別室にて記録された。それが成長にどのような影響を及ぼすのかが不明だったからだ。
彼女を騙してここまで連れてきたことには抵抗があった。彼女には、君は重い病気を患っていて、治すためにいろんなことをしなきゃ行けないと伝えていた。その中には非道いものも沢山あった。ぜーーんぶ、真っ赤な嘘なのに。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!