――恵十がふざけて、自分が落ちた。
その言葉が、無性に気持ち悪かった。一体なぜか、なんてわからない。ただ、とてつもない嫌悪を感じた。
友達のせいで、自分がこんな目に遭ってるからだとか、そんな簡単な理由じゃない。
……いや、それもあるのかもしれないけど、気持ち悪さの正体は、そんなものじゃない、と確信していた。
――じゃあ、あの時見た影は?
――あの時、肩に感じた衝撃は?
――――全部、自分の勘違いなのか?
ぼんやりと象っていた輪郭が、だんだんとはっきりしてくる。記憶が鮮明によみがえって、けれどもまだ、肝心の場所が黒く滲んだまま見えない。
自分で飛び降りたんじゃなく、誰かに。
――――じゃあ、一体誰が、なんのために?
そう考えていれば――誰かに、服の裾をグッと引っ張られる。後ろを振り向くと、恵十がまるで心配しているかのように、希愛の服を握っていた。
そう言いながら扉を開ける恵十の頭上には――真っ白になるまで使われた黒板消し。待って、と声をかける間もなく、たちまち恵十の頭は雪原みたく真っ白になってしまった。
教室の奥でゲラゲラ笑う男子の方へ、ずんずんと向かっていった恵十は、内一人に蹴りを入れ、正座させた後、腕を組んで言った。
顔は笑っているのに、地を這うような、相反する低い声に男子と取り巻きは全身を震わせた。
◇◆◇
休み時間になれば、希愛の席には自然と人が集まってきた。希愛が記憶喪失だと知ったうえで、また仲良くなりたい、だとか、記憶喪失って実際どんな感じなのか、などと散々質問攻めに遭い、やっと一段落ついたと思えば、今度は廊下から、自身の名を呼ばれた。
そう言ってドアからひょこりと黄色い髪を覗かせた黄瀬達哉と、もう一人、紫色の髪の人が、迷うことなく希愛の方を見る。
そう達哉が言えば、隣にいる紫髪の人の肩を掴み、ぐいっと引き寄せる。
頭脳派。その名の通り、頭がいいのだろう。話しながら、希愛はなんとなく、考えた。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。