第9話

【9】否定するために
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2025/11/26 12:00 更新
 ――恵十がふざけて、自分が落ちた。

 その言葉が、無性に気持ち悪かった。一体なぜか、なんてわからない。ただ、とてつもない嫌悪を感じた。
 友達のせいで、自分がこんな目に遭ってるからだとか、そんな簡単な理由じゃない。
 ……いや、それもあるのかもしれないけど、気持ち悪さの正体は、そんなものじゃない、と確信していた。

 ――じゃあ、あの時見た影は?

 ――あの時、肩に感じた衝撃は?

 ――――全部、自分の勘違いなのか?

 ぼんやりと象っていた輪郭が、だんだんとはっきりしてくる。記憶が鮮明によみがえって、けれどもまだ、肝心の場所が黒く滲んだまま見えない。
のあ
(私は、誰かに突き落とされたんだ)

 自分で飛び降りたんじゃなく、誰かに。

 ――――じゃあ、一体誰が、なんのために?

 そう考えていれば――誰かに、服の裾をグッと引っ張られる。後ろを振り向くと、恵十がまるで心配しているかのように、希愛の服を握っていた。
花菱恵十
 希愛さん……? 
のあ
 ……? はい、なんですか? 
花菱恵十
 なにって、さっきから
 呼びかけてるのに、返事しないから…… 
のあ
 ……すみません、少し考えごとしてて 
花菱恵十
 ……そっか 
花菱恵十
 気分が悪くなったら、遠慮なく言ってね 
花菱恵十
 あ、ほら。そこね、教室 

 そう言いながら扉を開ける恵十の頭上には――真っ白になるまで使われた黒板消し。待って、と声をかける間もなく、たちまち恵十の頭は雪原みたく真っ白になってしまった。
同級生A
 うっわ、ハズレたー! 
同級生B
 ほら言ったろ?
 最後に来んのは花菱だって! 

 教室の奥でゲラゲラ笑う男子の方へ、ずんずんと向かっていった恵十は、内一人に蹴りを入れ、正座させた後、腕を組んで言った。
花菱恵十
 先に歩いてたのが、
 病人じゃなくて私でよかったね? 

 顔は笑っているのに、地を這うような、相反する低い声に男子と取り巻きは全身を震わせた。

      ◇◆◇

 休み時間になれば、希愛の席には自然と人が集まってきた。希愛が記憶喪失だと知ったうえで、また仲良くなりたい、だとか、記憶喪失って実際どんな感じなのか、などと散々質問攻めに遭い、やっと一段落ついたと思えば、今度は廊下から、自身の名を呼ばれた。
黄瀬達哉
 なぁなぁ! 希愛さん
 学校復帰ってほんまか? 
.
 たっつん、うるさい 
.
 失礼、葛城希愛さんはいますか? 

 そう言ってドアからひょこりと黄色い髪を覗かせた黄瀬達哉と、もう一人、紫色の髪の人が、迷うことなく希愛の方を見る。
のあ
 ……あ、たっつんさん 
黄瀬達哉
 そそ 
黄瀬達哉
 覚えてくれてたん? うれしいわ 

 そう達哉が言えば、隣にいる紫髪の人の肩を掴み、ぐいっと引き寄せる。
黄瀬達哉
 あ、こっちは
 クラスメイトの守譜くんな 
京鹿守譜
 始めまして、京鹿きょうが守譜もふです 
京鹿守譜
 一応頭脳派してます 

 頭脳派。その名の通り、頭がいいのだろう。話しながら、希愛はなんとなく、考えた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
のあ
(……相談したら、全部、わかるのかな)
 

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