「ジェミナ。何してんの?」
1週間ぐらい後だろうか。放課後1人で校庭に向かうジェミンを見つけて後ろを付けてから声をかけた。走る音に耳を傾けて、その瞬間に目をそらす。ヘチャンですら分かっていた。ジェミンの心は陸上の方向に向いていることを。
「もう。やんないのか?」
黙ったまま、目を閉じたジェミン。正直、横顔から目が離せないように感じた。でも、拒絶されているようにも感じた。目を閉じて変わらない表情の中で、拒絶を感じた。もはや、拒絶しか感じられなかった。
それでも横にいた。
ジェミンがまた心に素直になれるならば、必ず走ってくれると信じていたから。必ず、再び舞台に立つと信じていたから。
「俺は、やろうと思えばやれるんだ。」
「この世界、スポーツをあきらめろって言われるほど」
「大きな怪我をして、復帰できない選手だって多い。」
「それはわかってる。けど、」
「どうしてオレは復帰できるのか分からないし、」
「どうして俺が選ばれたのかもわからない。」
「俺は所詮2位だし。」
「ケガをしたらもともと負けてた選手になんて」
「追いつけないことは知ってる。」
「ずっと目標だったのに。」
「それを打ち破られたら、何が残るんだよ。」
「でも本当は、走りたい。」
「自分を破りたいのに、破れない。。。」
そう残してジェミンは立ち上がって、ここを去った。
俺には一体、何が残ったのか。響くスタート音に続く足音。悔しがる声を出す選手。彼らは一体何のために陸上を続けて日々走っているのか。それは、優勝なのかな。それとも、。
「先輩。」
「俺が見た陸上の試合、優勝したの誰だっけ」
「あー誰だっけな。」
「調べてみれば?そこのパソコン使っていいよ」
「おー。優しい。アザス」
「もっと気持ち込めろー笑」
机の上にあるパソコン。少し古いが、調べるのには十分の性能だった。【20XX年 全国中学生陸上競技大会 結果】と入力してからエンターキーを押す。えっと、優勝は、
「イジェノ。」
確かに聞いたことがる気がする。でも、この顔は確実に覚えている。インタビューされたし、1位で優勝。全国最強。それがかっこよくてよく覚えている。こいつは今どこにいるんだろ。強豪校で常に鎬を削っているのだろうか。いや、おそらくそうだろうに。
ジェノが笑顔で金メダルを持ち写真を撮る横で目をジェミンは目を赤くしながら銀メダルを持っていた。
どうやら2人は当初から仲が良かったようで、合宿にも共に参加していたらしい。2人は互いを高め合う良いライバルと言った。ジェノは今のジェミンをどう思っているのか。ライバルが減り、よかったと思うのか。それとも。。。
「にしてもなんでいきなり陸上なんて」
「お前、もしかして陸上部に入りたい?」
「なわけ。俺バイトしたいし。」
ジェミンやジェノのような有名選手になれるなんて思ってない。それならその時間を少しでもバイトに充てたい。俺は充実した学校生活よりももっと堅実な。いや、とにかく綺麗事よりも金が欲しい。大学にも行きたい気持ちが止まらないんだ。
今は自分の未来が、自分で描ける気がして、自分の夢を持てる気がして、羽ばたきたくてたまらない。
友達の生活を見ているだけで、当時は満足してたように思う。高校の話を聞くだけで、なんとなく自分も想像できたし、話を聞いて楽しそうな友達を見るのが何よりも嬉しかった。
でも今は、そこに自分がいて、どれだけ現役の年下の高校生といることが大変かも、年下の流行りについていくのが難しいのかも、今はすべて知っている。馴染めない辛さも、年齢を盾にクラスメイトに一線引いてしまう自分への悔しさも、知ってる。
それを知ってもなお、自分の夢を見つけたいと思えた。夢を持ちたいと思った。
「あ、待って!!」
いきなり立ちがり大声を出すから先輩を驚かせてしまったと思う。実際驚いて「何?!なんだよまじで。」って言ってたし、それでも思いついた大ニュースを逃すわけには行かなかった。
ジェミンも俺と同じだったらどうする。
そんな気がする。そんな気がした。
明日言わないといけない気がする。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。