第93話

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2026/03/02 22:35 更新







 薄暗い部屋。 


 静かに本を閉じた男。 





 クロロは、こちらを見て、 
 ほんのわずかに微笑んだ。 


 あの目を、私は忘れない。 





 優しいわけでも、残酷なわけでもない。 





 ただ、深い。 


 底の見えない、静かな湖のような目。 





 どうして、あそこまで尊敬を抱いたのか。 


 自分でも分からない。 





 理屈じゃない。 


 気づいたときには、もう憧れていた。 





 その隣に立ちたいと、思ってしまった。 





 守られる存在ではなく。 


 見上げる存在でもなく。 





 並び立つ存在として。 


 あの背中を、支える者として。 





 あなたは、団長を揺らす。 


 私は、団長を支えたい。 





 違う。 


 役割も、温度も、きっと全部。 





 それでもいい。 





 血が、また一滴落ちる。 





 足がもつれ、壁に手をつく。 


 石の冷たさが、拳から伝わる。 





 意識が、遠のきかける。 


 それでも、歯を食いしばる。 





 私は、団長の隣に立つ。 


 何を犠牲にしても。 





 たとえ___ 


 選ばれなくても。 





 それでいい。 


 最後まで、そばにいる。 





 それが、私の選択。 





 夜の向こうに、かすかな気配を感じる。 


 団長の気配。 





 それだけで、胸の奥が静かに熱を持つ。 





 薄く、笑みが浮かぶ。 





 もう少し。 


 あと、少しだけ。 





 倒れるなら、その前で。 


 その足元で。 





 私は、歩く。 





 血の跡を、残しながら。 





 ♢ 
















 ♢ 



 夜は、やけに静かだった。 


 風が止んでいて、世界が息を潜めるみたいで。 





 私は、足を止める。 





 その先に、立っている。 





 黒いコート。 
 静かな佇まい。 


 月明かりに縁取られた横顔。 





 ずっと、探していた背中。 









あなた.
 …クロロ 







 名前を呼んだだけで、胸がほどけそうになる。 





 声が、震えた。 





 クロロは、ゆっくりと視線を向ける。 





 深い目。 


 逃げ場のない目。 









クロロ.
 …無事か 







 低く、落ち着いた声。 





 いつも通り。 


 揺れない声。 





 なのに。 


 その一言だけで、 
 張りつめていた何かが、ぷつりと切れた。 









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