薄暗い部屋。
静かに本を閉じた男。
クロロは、こちらを見て、
ほんのわずかに微笑んだ。
あの目を、私は忘れない。
優しいわけでも、残酷なわけでもない。
ただ、深い。
底の見えない、静かな湖のような目。
どうして、あそこまで尊敬を抱いたのか。
自分でも分からない。
理屈じゃない。
気づいたときには、もう憧れていた。
その隣に立ちたいと、思ってしまった。
守られる存在ではなく。
見上げる存在でもなく。
並び立つ存在として。
あの背中を、支える者として。
あなたは、団長を揺らす。
私は、団長を支えたい。
違う。
役割も、温度も、きっと全部。
それでもいい。
血が、また一滴落ちる。
足がもつれ、壁に手をつく。
石の冷たさが、拳から伝わる。
意識が、遠のきかける。
それでも、歯を食いしばる。
私は、団長の隣に立つ。
何を犠牲にしても。
たとえ___
選ばれなくても。
それでいい。
最後まで、そばにいる。
それが、私の選択。
夜の向こうに、かすかな気配を感じる。
団長の気配。
それだけで、胸の奥が静かに熱を持つ。
薄く、笑みが浮かぶ。
もう少し。
あと、少しだけ。
倒れるなら、その前で。
その足元で。
私は、歩く。
血の跡を、残しながら。
♢
♢
夜は、やけに静かだった。
風が止んでいて、世界が息を潜めるみたいで。
私は、足を止める。
その先に、立っている。
黒いコート。
静かな佇まい。
月明かりに縁取られた横顔。
ずっと、探していた背中。
名前を呼んだだけで、胸がほどけそうになる。
声が、震えた。
クロロは、ゆっくりと視線を向ける。
深い目。
逃げ場のない目。
低く、落ち着いた声。
いつも通り。
揺れない声。
なのに。
その一言だけで、
張りつめていた何かが、ぷつりと切れた。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。