夜勤明け
眠れないままコーヒーを飲んでいた
携帯には、ローレンからの着信履歴がひとつ
私は少しずつ、自分の心に嘘をつくのが苦しくなっていた
そんなある日のことだった
仕事帰り、どうしても叶に会いたくなって
連絡もせずに彼の家へと向かった
玄関前に立つと、中から楽しげな声が聞こえた気がした
一瞬、躊躇したけれど、チャイムを押そうとしたそのとき
扉が開いた
そして、そこから――
叶と、見知らぬ女性が出てきた
彼女は仕事用の黒いスーツを着ていて
手には書類らしきファイルを抱えていた
叶さんと何かを笑い合いながら、軽く会釈して去っていった
目の前の光景が、うまく処理できなかった
仕事関係の人――
そう思い込もうとする私の中で
何かが静かに音を立てて崩れていくのが分かった
信じてる
信じたい
でも、どうしてだろう
胸の奥が、ズキンと痛んだ
彼は気づいていない
私が、ここにいたことも
私が、泣きそうになっていることも
帰り道
人気のない路地
屋台のざわめきが背中の方で遠ざかっていくにつれて
音がどんどん消えていく
まるで世界が、呼吸を止めたみたいだった
月明かりがやけに明るくて
自分の影だけが長く伸びてついてくる
足音だけがコツコツと響く
なぜだろう、誰かに見られている気がした
でも振り返っても、そこには誰もいない
心臓が、妙に早くなる
スマホを握りしめる手に、少し汗が滲む
私はまだ知らなかった
この夜が、あんな結末を迎えるなんて
そして――
ふたりの絆が、試される瞬間が
もうすぐ、すぐそこまで迫っていることを












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!