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第1話

偶然…いや必然
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2025/05/27 18:55 更新
はる
はる
ん゙ん゙〜…いまなんじぃ…
 はるはベッドのサイドテーブルにある目覚まし時計を手に取った。小学生の頃から使っているアナログ時計で、もうアラームの機能は壊れてしまっているが、まだ時計としては使えるので取っておいている。
はる
はる
……は?はちじ、、?!
はる
はる
やっば!学校遅刻する?!
 ピアスを沢山つけていて、鮮やかに染めたピンクの髪にピンクのカラコンをつけ、ネクタイは緩めるのが当たり前といういかにも不良のような見た目だが、実際はとても真面目で勉強もスポーツも出来るいわゆる"天才"なのだ。そのため、学校は遅刻したことがない。
 しかし、昨日は部活の大会で夜遅くまで外に出ていたため疲れていたのだろう。ぐっすり寝てしまい、この時間だ。

 はるは慌ててベッドから下りると、急いで着替えてリビングへ行った。
はる
はる
お母さんおはよ!朝ごはんのパン持ってって学校で食べるわ!ごめん!!
 母は一瞬驚いた顔をしたが、すぐにいつもの顔に戻って、机の上を指さし、こう言った。
はるの母
あらはるが寝坊?珍しいわね、そこにあるパン持っていきなさい〜あとお弁当も忘れないでね〜
はる
はる
あんがとっ!行ってきますっ!!
 急いでそのパンとお弁当をかばんにいれ、はるは玄関から駆け出した。
 朝のホームルームが始まるのは8時30分で、現在時刻は8時15分。家から駅まで3分程度、そこから10分くらい電車に乗り、また3分程度歩くと高校がある。まぁ走れば3分のところは1分に縮められるだろうから…電車の時間次第だな。
はる
はる
はぁっ、はぁっ…
 駅の改札を通り、階段を駆け上がる。ホームに着いたと同時に電子掲示板を見ると…
はる
はる
8時17分に来る…!
 はるはほっとため息をついた。確かこの電車はいつもの電車の1本後だったと思う。毎朝見ていた時刻の下が確か17分だったはず。
 それからすぐに電車が来た。車内は思っていたよりも空いていて、所々空席があった。この後走って向かわなければならないので、はるは迷わず端の空いている席に座った。電車が出発し、はるはぼーっと前を向いて揺られている。

 はるが乗ってから少し経ち、隣に座っていたおじさんが席を立って電車を降りた。それを何となく目で追っていたはるは、乗って来た人を見て息を飲んだ。
はる
はる
……!
 とても美しかった。無造作に伸びている長髪、それなのにズボラな感じはしない。薄い青紫のような髪の色、丸眼鏡越しに見える澄んだ水色の瞳。高身長でスタイルはめちゃくちゃいい。まるでモデルのようだ。いや、本当にモデルさんなのかもしれない。
 その人は僕の前を通り、隣の席に座った。近くで見るとより一層美しく見える。長いまつ毛、綺麗な鼻筋、整った顔をしている。男性なのか女性なのかは分からない、けれどそんなことがどうでも良くなるくらいに美しい。僕は初めて一目惚れをした。
あの人
あの人
…あの、顔になにか付いてましたか?
 さすがに見すぎてしまったようで、声をかけられてしまった。出てきた声は想像通りの中性的で綺麗な声だった。
はる
はる
い、いや、なんもついてないっ、ついてないですっ!じろじろ見てすみませんでしたっ!!
 僕は慌てて否定した。あの人はきょとんとした顔でこちらを見ている。慌てすぎて、変に思われてしまっただろうか…咄嗟に謝ったけどこれでは謝罪が足りなかったかな……少し先程の言葉を反省し、俯いていた。
あの人
あの人
…ふふっ、大丈夫ですよ。気にしないでください。
 あの人はそう言い微笑んだ。周囲に花が舞ったような気がした。
はる
はる
ありがとうございますっ…!
 はるもお礼を言いながら、笑顔を返した。
車内放送
次は〜〇〇〜〇〇〜お出口は右側です。お降りの際は足元に〜ご注意ください。
 気がついたら、学校の最寄り駅だった。
はる
はる
あっ、やべ!僕もう降りないと!!
 また会える、いや絶対会おうと思った。だから僕はこう言った。
はる
はる
また!
 あの人はそういう僕を、手を振りながらにこやかに見送ってくれた。
 電車を降り走っている間も、授業中も、お昼休みも、ずーっとあの人のことを考えていた。頭から離れなかった。帰りの電車でも、あの人がいないか探したが見つからなかった。帰ってからも、ずっとずーっとあの人のことを考えていた。眠ることはできたが、夢の中にまで出て来た。それほどまでに僕はあの人のことが大好きになっていた。

 次の日、僕はいつも通りの時間に家を出た。
はる
はる
行ってきまぁす!
はるの母
いってらっしゃ〜い!気をつけていくのよ〜
はる
はる
うん!
 昨日よりもゆっくりといつもの道を進む。頭の中はやはりあの人のことでいっぱいだ。いつも通りの時間に駅に着いたが、いつもの電車は見送る。いつもの1本後、昨日あの人が乗ってきた電車に乗った。
はる
はる
……今日も乗ってくるかな
 昨日と同じ号車、同じドア付近の同じ端の席に座り、少しドアの方を気にしながら前を見る。そうして電車に揺られていると…
はる
はる
来たっ
 はるは心の中でガッツポーズをした。あの人が乗ってきたのだ。今日も隣の席は空いている。隣に来てくれるかなとドキドキしていた。
 しかし、先に乗ってきた人が隣に座ってしまった。はるはこれではあの人が隣に座れないと落ち込んだ。
はる
はる
……はぁ
あの人
あの人
ため息ついて、どうしたんですか?
はる
はる
実は……ってえ?
 声がする方を見ると、ドアのそばで手すりを掴みながらこちらを見るあの人がいた。
はる
はる
え、いや、えっと…なんでもないですっ!
 急に話しかけられて慌ててしまい、すごく不自然な返答になってしまった。
あの人
あの人
そうですか。それならいいんですが。
 あの人は昨日と同じように微笑みながらそう言った。あぁ、やっぱり綺麗だな、そう思った。それからは、昨日は出来なかった話を色々とした。普段何をしている人なのか、いつもこの電車に乗っているのか、好きな食べ物は何か…あっという間に時間は過ぎていった。
車内放送
次は〜〇〇〜〇〇〜お出口は右側です。お降りの際は足元に〜ご注意ください。
はる
はる
あ…もう降りる駅だ…。
 正直まだ話していたかったけれど、仕方がない。
あの人
あの人
そうですか…。また明日話しましょう。
 あの人は少し寂しそうな顔をして、そう言ってくれた。"また明日話しましょう。"はるはこの言葉がすごく嬉しかった。
はる
はる
はい!また明日!!

 その日からはるは、学校に行く日も行かない日も、毎日同じ電車に乗った。行く日は学校の最寄り駅で降り、行かない日はあの人が降りる次の駅で降りて朝食を取り帰る。そんな日々が続いた。あの人の勤めている会社には休みの日がないらしく、毎日電車で会う事ができた。毎日話せるので嬉しい反面、体調が心配で休んで欲しいとも思った。

 ある休日、いつも通りあの人と話している時、ふと思ったことを口にした。
はる
はる
僕のお父さんの会社に勤めればいいのにな
 僕のお父さんは小さな会社の社長だ。絶対あの人が勤めている会社よりもホワイトで、休みはきちんと取れるはず。聞いている限りだと、業務内容もほぼ同じだった。
あの人
あの人
ん〜そうですねぇ…でも今の会社もいい会社ですし、やりがいもあります。気遣いは嬉しいのですが、今はこのままでいいですかね〜
はる
はる
そっかぁ…
 提案を断られてしまって、少し落ち込んだ。でも、あの人にはあの人の思いがあるのだろう。仕方がない。
あの人
あの人
それに…
はる
はる
…それに?
あの人
あの人
…いや、なんでもないです。
 そこまで言っておいてなんでもない…気になる。気になりすぎる。こういうのが1番気になる!!
はる
はる
え〜!気になりますっ!教えてくださいよ〜!!
 つい聞いてしまった。
あの人
あの人
……毎朝あなたと話すのが楽しいから、、。
はる
はる
へ…?
 僕が気の抜けた声を出すと、あの人はすぐ顔を背けてしまった。あの人の綺麗な薄い青紫の髪の隙間から見える耳は、ほんのりと赤く染まっていた。
はる
はる
……可愛い。
 つい口に出てしまったその言葉は、あの人の耳をより一層赤く染めた。

 その日から数日経った。初めて会った日から、ちょうど半年記念日だ。あの人が照れているところが忘れられない。とても可愛らしかった。あの照れ顔を他の人に見せたくないという独占欲が働いてしまうほどだった。……そろそろあの質問してみるか。はるは覚悟を決めた。
はる
はる
……あの、ちょっと聞きにくいんですけど、、
あの人
あの人
ん?どうかしましたか?
 あの人が優しく発言を促してくれたことに勇気を貰い、すぐ質問を口にすることが出来た。
はる
はる
……かれかのとかっているんですか?
あの人
あの人
いないですね。
 即答だった。なんなら少し食い気味に聞こえた。はるは、もしいないと言われたらこう言おうと決めていた言葉があった。それは…
はる
はる
…なら、僕とお付き合いしていただけませんか?
 あの人は目を見開き驚きながら、顔を赤く染めた。そして、少し経ってから……首を縦に振った。
はる
はる
……!そ、それは本当ですかっ!
 まだ現実味がない。もしかしたら夢なんじゃないかと思い、もう一度聞いてみた。
あの人
あの人
は、はい…//これからよろしくお願いします///
 あの人は照れながらこう言った。とてもとても嬉しくてたまらなかった。照れながら言っているところも可愛らしい。全てが愛おしい。そう感じた。

 この人に一目惚れをして半年、僕はこの人と付き合うことが出来た。もしあの日に僕が遅刻をしかけていなかったら、もしこの人がいつも違う電車に乗っていたら、こんな素敵な人と付き合うことは出来なかっただろう。この出会いは偶然…いや必然だったのだろうと僕は思う。これから僕は、この人を一生をかけて幸せにする。絶対に、何があってもこの人のそばにいよう、そう誓った。
















































 この人と付き合ってからちょうど1年半後の春、僕とこの人は2人で電車に乗りこんだ。
 この人は付き合ってすぐ元の会社を辞め、僕のお父さんの会社に勤めることになった。それと同時に僕の家の近くに引っ越してきて、毎朝会話をしてから学校に向かっていた。僕が高校を卒業した2ヶ月ほど前まではね。僕が卒業してからは、毎日この人の家に遊びに行った。たわいもない話をして、朝ごはんを食べ、休日なら夜まで一緒に過ごす。平日なら仕事場まで一緒に行き、これから僕が勤めるであろう会社を見学したり、仕事を手伝ったりしながらこの人とずっと一緒にいた。入社してからも、仕事をこの人に教えてもらいながら1日を過ごした。
 そして、今日は休日。いつもならこの人の家で話しているが、今日は違う。僕が遅刻したあの日と同じ電車に乗り、あの日と同じ端の席に座った。でも今日は最初から隣に大好きなこの人がいる。とある1枚の紙が入った鞄を大切そうに前に抱えるこの人がいる。
車内放送
次は〜〇〇〜〇〇〜お出口は右側です。お降りの際は足元に〜ご注意ください。
はる
はる
降りようか。
この人
この人
うん。
 あの日とは違い、タメ口でそう話しながら高校…いや役所の最寄り駅で降りる。この人と僕の左手の薬指には銀色の指輪が太陽に照らされ光っている。

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