扉から出た先は──少し広い廊下のようだった。
ログイン直後は、“宿屋”という建物にスポーンするらしく、ここがおそらくそうなのだろう。
そして、ちょうど斜め向かいの扉から、銀色の長髪が目を引く女性アバターが出てくるところに鉢合わせた。
穏やかさをたたえた彼女の青色が、こちらを捉える。
もしや、と思ったが、やはりみぞれだったらしい。
めめんともりも普段の自分とあまり変わらないキャラクリエイトをしたので、向こうにも自分がわかったようだ。
みぞれの視線が泳いでいると思ったら、めめんともりの耳を見ていたらしい。
そういえば、と思って自身の耳に触れ、形を確かめると、想像通りの長く尖った耳の形をしていた。
それしても、触感があまりにリアルだな──と感じた。
自分の指先が自分の耳に触れる感覚が、しっかり伝わってくる。
没入型RPG、と謳うだけのことはある。
もはや現実との境がわからなくなりそうなレベルだ。
思わず聞き返すと、みぞれは「そうです」と首肯した。
確か、みぞれは“ヒト系”のガチャを引くと言っていたような気がする。
みぞれが何を狙っていたのかは忘れてしまったが、人間がガチャに入っていることは事前情報になかった気がする。
覚えず怪訝な顔をしていたのだろうか、みぞれが少し慌てたように付け加えてくれる。
ちなみに、Pスキルというのは、常時発動のスキルのことだ。
特定の属性攻撃に補正が乗るスキルから、アクセサリーの効果が向上するスキルまで、かなり色々な種類がある──というのが、事前の発表で判明していた。
みぞれがそう呟いたあと、彼女の前に青色のウィンドウが浮かび上がった。
めめんともりから見えるのは透けたウィンドウの背面だけだが、その背面に【ウィンドウを見ています】と表記されている。
なるほど、ウィンドウは他の人からは見られなくなっているらしい。
みぞれが何かぶつぶつ言ったあと、ピロン、という音がして、彼女のウィンドウが切り替わった。
【ウィンドウを見ています】のメッセージが消え、びっしりと文字や数字が羅列された──いわゆる、みぞれの【ステータス】が見られるようになっていた。
よく操作ミスやらでポンをしている印象のあるみぞれだが、ゲームの操作方法が性に合っているのか、サクサクとウィンドウを操作する。
みぞれが指差した先には、《ジャック・フロストの加護》の文字が並んでいた。
フロスト、とあったので氷属性関係のスキルなのでは、と思っていたが、おおよそ予想通りであった。
めめんともりの言葉に、みぞれはパッと笑ったあと、自身のステータスに視線を戻した。
めめんともりも自身のステータスを見ようと念じると──ブン、と青色のウィンドウが開かれる。
左上に【めめんともり】の文字と、アバターの顔が映されている。
そのほかに、Pスキル、Aスキル、オプションなど──色々な項目がある。
Aスキルは、魔法などの“戦闘中に能動的に使用するスキル”のことだ。
Pスキルは空欄であったが、Aスキルの欄には、《ファイアボール》《サンダーショック》など──いくつかの、よくある魔法らしき名前が並んでいた。
エルフは魔法特化の種族であるから、最初から覚えている魔法も多いのかもしれない。
みぞれにもステータスを見せられないか、と思ったところ、都合よく【みぞれにステータスの閲覧を許可しますか?】というテキストが現れた。
“一部を許可”か“全てを許可”か選べたが、面倒だったので“全てを許可”を選択する。
みぞれにもめめんともりのステータスが見えるようになったようで、興味深そうにステータスを眺めている。
思い出した、というように、みぞれが手をぽんと叩く。
ログイン直後、どのサーバーになるかはランダムになるという話があった。
さすがに全世界が注目しているゲームだけあって、サーバーがいくつかに分かれているらしい。
しかし、ログインしたときは別々のサーバーでも、手続きさえ行えば合流することもできる。
それにはまずゲーム内フレンドになる必要がある。
フレンドコードはベティゴーグルの機体番号であるので、ログイン後は各自でめめんともりにフレンド申請を送り、自分のいるサーバーに集合しようという話になっていた。
フレンド申請画面を見ると、すでにみぞれ以外の全員から申請が来ていたので、ぱぱっと全員承諾しておいた。
他のサーバーから移動してきた人の窓口は、こことは違うところにある。
めめんともりはみぞれと共に移動を始めた。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!