庭の草花は風に揺れて静かに舞った。
見渡す限りの蝶々も、太陽の光も、皆夜になりそうだった。
雷が音を立てていた。鐘のように、ただ深刻に。
軽やかな声で、そう言った。
目の前に、狐のお面を被ったドールが立っていた。
蝶々はドールの指に静かに止まって、まるで時が止まったみたいだ。
目の前にいるその存在は、ずっとずっと微笑んでいた。
その笑顔、私は好きだ。
貴方が私の気持ちを好いてくれる遥か先に、私の気持ちは存在する。
世界で聞いた貴方の曲も、哀と同時に優しかった。
華やかな蝶々が飛んで行った。
未来か過去か....
その疑問すら、私は鼓動が早まった。
興奮という期待だけ、感じることが出来ていた。
お互いに、瞳を震わせ必死に笑った。
正体...なんて、大層なものでも無いけれど。
痕跡なんて残してなかった。
最初から、少し会って別れるつもりだったから。
貴方が私を引き連れるまで、永い年月一緒に居るなんて、考えられる思考は無かった。
それでも。
相も変わらず楽しかったぁ.....、
....分からない。
人に説明されたんじゃ、貴方の心は理解できない。
そう、貴方は言ったんだ。
微かに表情を変えていた。
そうか...なんだよ...あの時なんて、もう覚えていないのに。
いつの間にか私の目の前まで迫って来ていた。
風に髪をなびかせて。
ただ一心不乱に、目の前にあるパソコンだけを。
「非公開での協力要請。
我々警察は、貴方の実力を認めております。
ハッキング、コード入力、バックドア...どれも皆素晴らしい!!!
お願いします。返信は不要です。
協力して頂けるのなら、このパソコンのデータを削除しないで頂きたい。
貴方が尻尾を掴んだ時には、このメールアドレスにてご連絡を。」
あぁ、そんなこともあったかな。
随分前で、一番薄い。
この瞳だけに、全てを賭けた。
奥深くて、ハイライトも無い、そんな瞳に。
思ってもみなかった程に、手は震えたし、瞳は揺れたし、その言葉一つが胸に響いた。
最初から、私は貴方を楽しみにしていた。
学校で、クラスの奴らから悪口ばかり言われる時、
良い事をしても、周りの視線が痛い時とか、
一人だけ、違うことをしてしまったその悲しみも。
全部世界は消してくれたのに、この地に立っている理由だけは、全てを現実へと引き寄せた。
思わず下を向いていた。
何も無い、その地面だけ。
音を鳴らして、拳銃を構えた。
風の音すら、適わなかった。
心からの、その言葉を。
自分が自分を信じなければ、この未来に希望は無いと。
過ぎ去っていく時間のように、君の姿は秀麗だった。
不安という感情が、私に生まれなかった訳じゃない。
人と過ごせば過ごすほど、自分を信じさせることよりも、自分が信じなければならないことの方が、幾分か難しいのだと
気が付いた。
君が向ける拳銃も。
私は予想出来ない未来にワクワクしている。
それが、紛れも無い私なのだ。
死ぬか...生きるか。
その運命は、私が決めよう。
しばらくの、沈黙が続いていた。
海を静かに泳ぐシャチのように、より冷静で、恐ろしい。
だけど、その者は遥かに超越する実力で...
さも見透かしていたように声を変えた。
予想外のその質問に、私は思わず瞬きをする。
ありすぎるくらいには、迷っていた。
声が、必然的には出なかった。
その質問に、どんな意図があるのか、拳銃が交差するこの一時で、貴方は一体何を考えているのだろうか....
本当に、何も無い。
だからこそ、笑って帰れるその時がある。
深く入ってしまうほど、闇に吸い込まれる力はどんどん大きくなっていって、
その辛さ、貴方が一番分かっていると思うから。
ドールは見つめるようなその微笑みで、美華を覗いた。
その煌めきは、永遠と君の力になるだろう。
そしてやっと報われる。
そんなことを、刹那に思っていながらも。
後悔している者がいた。
憂いをもってこの地に立っている者がいた。
一人の少女の号哭に、ドールはちゃんと前を向く。
その微笑みと、命だけを。
警察であるまじきその行動に、静かに怒りを募らせた。
後ろから聞こえてくるその足音に、呼吸が荒く、肩も震える。
その一言に、呼吸が浅く、速くなる。
生きるか死ぬか。
その運命...私だけが手にしている。
その拳銃を、1人に向けた。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!