私は、その静寂なるドールの後ろに着いて行った。
三年前.....
全ての五感に轟いてきた音がある。
暗い闇の中、一つだけ幻想を抱いていたものがある。
それはもう一つの最高の場所"世界"だった。
パソコンを初めて母が買ってくれて、開いた途端に景色は変わった。ただの闇の自分の部屋が、たった一瞬光に満ちた。
こんなにも....こんなにも楽しい世界があるんだと、ただのネットの画面の虜になって、無我夢中にのめり込んだ。
キーボードの音さえも、マウスをクリックする感覚も、youtubeを見ている時の興奮も、全部全部楽しかった。
それと同時に理解した。
この現実が、私には不相応なんだってこと。
君なら分かるはずだ。小説を読んでいる時時、私は心が踊っている。少しだけ書いてみて、それまた楽しかった。
それと同じことだった。
その画面の中には、新しい世界が広がっていて、自分と同じ人間も沢山いる。
特に理由も無いけれど、私は現実が嫌だった。
少しの視線も、少しの会話も、少しの人との繋がりも。
私は思わず天を仰いだ。
ゲームの世界だった。
バトロワゲーム。敵を倒したキル数での単純なゲームだった。
それでも、一つ一つの試合は違って、どんどん高みを目指していくようになっていた。
でも、たった一つの試合だけ、私は胸が痛かった。
味方は初心者、時に足手まといになっていたけれど、必死に味方を守る姿勢とか、努力とか、そういうのを感じた人がいたことだ。
名前は「ホルト」
由来は「ホルトノキ」から来ているそうだ。
試合が終わってからのチャットで、私は初めて"世界"でのお友達が出来たのだ。
朝方まで必死になった。
次の日は土曜日で、金曜の夜私はいつも徹夜していた。
だから、ホルトの体の方が心配になった。
私基準じゃ無いって事、それくらい、分かっていたから。
そこから時は早かった。
ホルトはどんどん上手くなって、私と同じくらいのレベルにまで到達していた。
たった三日だけなのに。
今思えば、ホルトの笑うタイミングと、ドールの微笑むタイミングは、少し似ていたような気がする。
もっとホルトに関心を向けろ、そう言われたのかもしれないが、ホルトが今言ったその言葉は、紛れもない事実だった。
ホルトに何か起こった分かると前日、いつものように世界に生きてた。
今度は、本の世界。皮肉にも、書いたその全ては人間だけど、本の世界に罪など無かった。
画面越しにでも分かっていた。
ホルトは少し悲しんだ。遠くを見つめるような、そんな微笑みと共に。
あまり、覚えていない。
次の日に、ホルトと会えなくなるなんて、思ってもみなかったから。
また明日と明後日と、世界で顔を合わして笑って、一緒に楽しんでいくもんだと思ったから。
フレンドから消えてしまって、この会話も無くなった。
全ては私の記憶だけだった。
....あの時ホルトは、なんの話をしたんだっけ。
霧がかかったように見えなくて。
楽しい思い出しか、頭に無くて。
いつしか、ホルトと出会い、ドールを信じて、アメアを知った。
その全て、どれも美しい人だった。
....私も、前を向く時なのかもしれない。
人間と関わらないで生きていく、無理な話だ。
この生涯、ドールに全てを捧げるのもありかもしれない。
だから、もう少しだけ、待って欲しい。
あと少しだけ。
全てを救う方法と、全てを欺く方法を。
不意をつかれるように穴が空いた。
その場所は、その部屋は、ホルトの好きだったゲームとか、映画のCDとか、パソコンの機種とか、他にも沢山。
僅かな雲が流れるように、その部屋の時間は動いていた。
口を開いた。
この事実を、ドールに確認しないといけない。
私は、その眼をドールに向けていた。
酷く濁った笑みだった。
ドールは全てを知っている。理解している。
だから、私に紡ぐその言葉は、私にとっての事実確認だ。
......ッ。
顔には何も出さなかった。
いや、出せなかった。
目の前にいる存在は、私以上の人だって。
私なんかでは、辿り着かないんだって。
ドールの微笑みを感じる度に、私は、一生その後悔に苛まれるのだろう。
それでも。優しすぎていた。
その部屋に一歩踏み出していた。
そこからもう止まらなくて....
リアルでも会ったことは無いし、通話だって一二回しただけだった。
それでも、ホルトが生きてた意思がある。
私のあの記憶も、あのチャットも、あの声も、ホルトはちゃんと生きていた。
その事は....せめて...その事だけでも、、
私は永遠に覚えていたい。
現実から背き続ける、私だけの物語。
一つの封筒、それだけが私の瞳に飛び込んできた。
震える瞳に、しっかりと。
扉の傍に、立っていた。
静かに、厳かに、華々しく、立っている人物がいたのだった。
真剣なる眼差しで、はたまた余裕そうな笑みを浮かべてその人は言った。
噛み締めながら、胸を手に当てていた。
その言葉に、アメアはこれまで以上に驚いた。
でも、その全て、決意していたことがあったから。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!