医療品の匂い、息の詰まる白い部屋
別に見慣れたくもなかった。
毎日のように通う場所ではないはずだ。
毎日毎日来てやってんのに、
挨拶もなしか。と心の中で悪態づいても
彼女は白いベッドに
たくさんのチューブで繋がれていて
その酸素マスクが少しくもり、
かろうじて生きてることが分かるだけ。
いつか
この白と同化してしまうんじゃないかと
我ながらバカみたいな考えで
行きに買ってみた色とりどりの花を
横に添えてやる。
___が、それが余計に
死人っぽさを強調してきたので
眉をひそめ、早々にやめた。
でも、まだ
まだ、いきてるから。
大丈夫
植物状態、生きているだけ奇跡、
1ヶ月、もつか分からない。
毎日毎日
彼女の手を握り続けた僕の祈りも虚しく
たった二週間後、
彼女はあっけなく死んでしまった。
その報告を受けてどうしたのか、
______ あまり覚えていない。
8本撮りですって。と
苦笑い混じりに告げたのは、加賀美。
通常通りふわりとした雰囲気を
纏いソファに座るのは、不破。
そんないつもの日常も久しぶり。
「 ストックが切れた 」
それは、僕らが最近まで
撮影をできる空気じゃなかったからだ。
椅子に座り頬杖をつく僕が発言すると、
何やら気遣わしげな空気が流れるのが
いたたまれない。
心配されているのは、知っている。
僕がこんなだから、2人があえて
いつも通り振る舞っているのを、
知っている。
彼女が死んだ、という事実が
世間ではもう終わった過去として
扱われるようになったことに
実のところ
僕はついていけてなかった。
んー、と加賀美は首を少し捻る。
おーま。桜魔。いわゆる、異世界。
彼女があっちの世界に転生していて
甲斐田くんが見つけてくるとか
そんなことはないかと、
考えたことがあった。
漫画の読みすぎだろうか。
不破が、ああーと
納得したような声を上げた時
一瞬、白い謎の光に部屋が包まれた。
後ろを向いていても
目の前が白に染まるほどの強い光
反射で目を瞑ってしまったものの、
それは一瞬で止んだらしく。
不破の少年的な声に
恐る恐る目を開けて、振り返った。
ガタン、と思わず勢い良く席を立つ。
若干、死を覚悟した。
だって堂々と光っているこれは
誰がどう見たって、
ぴたり、と皆一瞬固まったものの
すぐに我を取り戻す。
僕が少し後ずさる中で
加賀美は少しずつ
魔法陣(多分)に近寄っていく。
びしっ!と興奮気味に
光を放つソレを指さす加賀美。
好奇心旺盛が過ぎる。
不破も不破で、逃げはしない。
二人を窘めようとした、刹那。
ドンっ、と。
何か重い衝撃が、体にぶつかった。
それを受け止めきれずに、
ぐるりと回った視界。
後ろには、
運の悪いことにパイプ椅子。
あ、まずい。
_____ ガッシャン、と
派手な音を立て、
僕の体は地面に押し倒された。
反射的に瞑ってしまった目を
片目から、ゆっくりと開く。
手に力を込めて体を起こそうとするも
何か重しが乗っかっているように、
上手くいかない。
驚きと放心が入り混じった
加賀美の声が、遠くから聞こえる。
不破に至っては、声すらしない。
なんだ、見てないで助けろよ、と
何が起こっているのか分からず
ぐっと床についた腕に力を込めて
上半身を少しだけ上げると
そこに、魔法陣の姿はなく。
視線をそのまま下にずらしていくと、
重みの元凶であろう姿が、あって。
僕の上に、覆い被さっていたのは
人間、と、言うか













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。