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「本当〜?」と戯けるように言う五条に絶対零度も生温い目を向けるあなた。その手には今朝下駄箱で見付けた白い手紙が握られている。
ビビットピンクのハートという陳腐な封を施されたその手紙は先程寧々たちに見せた物と同一であり、裏にはあなたの名前だけがお世辞にも綺麗とは言えない字で記されている。
その拙い筆跡は、何を隠そう五条悟のものだった。
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チク、チクチク。
見えない棘が五条に突き刺さる。
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頑なに認めようとしないあなたにこれ以上の問答は不毛だと察したのか、五条は「ふぅん…」なんて鼻から抜けたような声を出すと、弧を描いた眼を曝け出した。陽光を乱反射させた海面のようなソレは、五条家の血を継ぐ者に稀に出現する【六眼】と呼ばれる特殊な眼だ。五条悟を最強たらしめる根幹であり、彼の生得術式である【無下限呪術】を使い熟すのに必要不可欠な道具だ。
青い青い、何処までも澄んだ瞳があなたを、かもめ学園の全貌を映し出す。きっと、今の彼には此処一帯の凡ゆる呪力の情報が視覚情報として一気に脳に雪崩れ込んでいるのだろう。脳にかかる負荷を想像してぶるりと身震いする。
暫く舐め回すように虹彩を動かしていた五条は、ある地点でその動きをピタリと止めた。科学論者が呪霊を目の当たりにしたような顔をする五条を不思議に思い、彼の目線をなぞる。
そして、目を見張った。
大ホール等が含まれる校舎。
一見何の変哲も無いただの校舎だが、丁度その大ホールが在る箇所の一部の呪力の流れだけが、まるで時が止まったかのように停止していたのだ。
【六眼】は非常に優秀だ。対象の呪力をサーモグラフィのように可視化するその眼は、建造物など呪力の無い物も呪力の流れや残穢を視認することで周囲の空間把握を可能にしている。(強大な力なだけあって、裸眼だと膨大な情報量に脳が疲労してしまうという弱点が有るが、五条は普段から目隠しやサングラス等で眼を覆い、情報量をセーブする事で其れを補っている。)
然しあの異様な光景を作り出した原因は、彼の眼を以てしても一切視えなかった。吹けば飛ぶような情報さえ与えられていない五条は今起きている騒動は疎か、この学園に存在する七不思議の存在さえ知識に無い。故に動揺した。非術師からすれば摩訶不思議な事象を解決している呪術師、それも現代最強と謳われる五条が、己でさえ理解し難い不思議に遭遇したのだから。
それでも大人として、教師として、呪術師の師として、五条は素早く普段通りを装う。
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図体に比例した骨張った指が燐灰石を孤独に戻せば、何時ものおちゃらけた五条悟が其処に居た。
こういう所を見ると、何ともまあ分かり易い人だなと思う。抑も術式の関係上、彼の事を掴めない人だと思った事は余り無いのだが(それでもストレスにはなる)、今回はそれを抜きにしても"一抹の安心を与えよう"という思考がはっきり見て取れたのだ。
だからと言って何かアクションを起こすあなたではない。更に言ってしまえば、数秒後には見て取った事自体忘却の彼方へ飛ばされているだろう。彼女は普段からヘリコプターのプロペラに掴まる勢いで振り回されているだけあって、五条関連に対する興味関心が著しく低かったのである。
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悠仁とは、ついこの前編入してきた四人目の一年生・虎杖悠仁の事だ。
何でも同じ部活の先輩と窮地に陥った恵を助ける為に【両面宿儺の指】を丸呑みして、【両面宿儺】を受肉させたらしい。
五条さんの事だから、顔合わせついでに呪術のじの字も知らない虎杖さんに呪力の扱い方を見せてやれ、とでも言いたいのだろう。そういうのは教師である五条さんがやるべきだとは思うが、簡易な仕事の押し付けは今に始まった事では無いので最早何も言うまい。
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。