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第15話

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2026/05/20 15:24 更新



物音がした。誰かに寄り添うような、間伸びた音が、自分の周りで点と点を繋ぐようにこだまして、不意に止んだ。先程まであった温もりが遠のいてゆく。それが、ひどく寂しくて。思わず手が伸びた。

すると、指先が、柔い何か、、を捕らえてみせた。

ゆるゆると目を開ける。はっきりしない視界の中、濡鴉の髪がやけに目映ゆく映る。「めぐみくん?」私の指先は、どうも彼の服の裾を追っていたらしい。寝惚けた喉はまともな音ひとつ出さなかったけど、彼は目敏く気がついて、私の視界を遮るように手を当てて、「まだ寝てろ」なんて酷い事を言うのだ。私が、彼の手の平の程よいぬるさに抗えないことを知っていながら。
拙い動きでなんとか彼の手を払いのけて起き上がる。どうやら此処は談話室のようで、校門前で寝落ちてしまったところを恵くんが運んでくれたらしい。

(なまえ)
あなた
「初めまして」のあいさつをするためにきたのに…
伏黒恵
伏黒恵
そんな明らか「限界です」って顔の奴を起こしてまで 
挨拶してもらおうとか思わねぇよ、彼奴は
(なまえ)
あなた
…そんなに酷い顔してる?
伏黒恵
伏黒恵
ああ

「ほら、分かったら早く寝ろ」恵くんはぶっきらぼうに告げると、再び私をソファに沈ませて、持っていた毛布を掛けてくれた。
本当に限界だったようで、ふわふわに包まれた私の意識は呆気なく、また暗闇に落ちてゆくのであった。







伏黒恵
伏黒恵
はあ……

重い溜息が静謐を揺るがす。
伏黒の視線は、何の気も知らずすよすよと心地良さげに眠るあなたの名字に注がれていた。
この生きる姫君プリンセス製造機はこと幼馴染が関係してくると、さも平常運転であるかのような顔で度の越えた無茶をしでかしてくる。といっても、話に聞いていただけで実際に目の当たりにするのは今回が初めてなのだが。
この様子では睡眠はおろか、碌な食事も摂っていないだろう。此奴の行動理念は幼馴染の平穏に重きを置いているようなので、多少の無茶は仕方の無い事ではある。自分だって、善人たる津美紀が危険な目にあっていれば文字通り身を投げ出して助けるだろう。似た者同士、思考は理解できる。
けれど、それはそれ、これはこれだ。心配だってするし、身を滅ぼしかねない程度の無茶を繰り返すならば、五条に任務から手を引かせるよう進言することだってやぶさかではない。かれこれ六年以上の付き合いなのだ。情くらい湧く。

伏黒恵
伏黒恵
自分の体調もかんがみれねぇ奴が、他人の心傷こころやぶれおもんぱかってんじゃねぇよ

それは、紛れもない本心だった。彼女が聞けば、きっと困ったように笑んでみせて、ただ、静かに肯定するのだろう。ならば辞めろと続ける事ができないからこそ、直接言って聞かせたことはなかった。そしてそれは、これからもないだろう。
雑念を払うようにかぶりを振った伏黒は、くしゃり、と乱雑にあなたの名字の頭を撫でて、先輩たちが待つグラウンドへ向かうのであった。




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