熱はすっかり下がって、身体もすこぶる軽くなった。
でも、あの日の夜の記憶だけは、熱に浮かされた夢なんかじゃなくて今も俺の胸の中に鮮明な熱を持って居座っている。
そんな淡い期待が、俺を少しだけ大胆にさせた。
今日は雑誌の撮影。スタジオの隅にあるソファで、出番を待っているめめが一人で座っている。今やったらメンバーもスタッフさんも少し離れた場所にいてる…
いつもの優しい声。俺は心臓をバクバクさせながら、思い切って自分の身体を横に倒した。
そう言って、めめの膝の上に自分の頭を乗せる。いわゆる膝枕の状態。
内心、パニックになりそうなのを必死で隠して、あえて少し甘えた口調で言ってみる。
俺なりに「煽って」みたつもりやった。
ちょっとくらい照れたり、茶化してほしい。そしたら俺らの距離がちょっとでも縮まってんちゃうかって思えるんやと思っていたのに。
上から聞こえてきたのは、短く息を呑む音だけ。
めめの身体が、石みたいにカチコチに固まったのが分かった。
慌てて顔を覗き込もうとしたけど、めめは顔を背けて、その片手は口元を覆っている。見えた耳の端っこは見た事もないくらい真っ赤やった。
嫌がられてるやん!と思った俺は慌てて身体を起こそうとした。
やっぱり気のせい。あんな看病、めめにとっては「ただの親切」やったんや。俺ひとりで勝手に勘違いして…めちゃくちゃ恥ずかしいやん…
離れようとした俺の頭を、めめが震える大きな手でそっと押さえつけた。
抗えない力で、再びめめの膝の上に押し戻される。
絞り出すような、掠れた声。
めめは俺の顔を見ないまま、もう片方の手で自分の目を覆っている。
膝から伝わってくる体温と、俺を抑える手の震え。
何も言ってくれへんめめに、俺はまた不安になる。
さっきまで「試してやろう」なんて思っていた余裕はどこかに消え、俺の心臓はあの日の夜みたいに警鐘を鳴らしはじめた。
結局、めめは撮影に呼ばれるまでずっと俺の頭を押さえたまま、ひと言も喋らへんかった。
指先が俺の髪を優しく撫でる感触だけが、俺の脳内をぐちゃぐちゃにする。
撮影現場に向かうめめの後ろ姿を見送りながら、俺はソファのクッションに顔を埋めた。
煽ってみたのは俺やったのに、結局掻き乱されて、逃げ場を無くしているのは俺の方。
思わせぶりなことして、俺をどうしたいんや…
やっぱり、この隠し事は心臓に悪い。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!