ジェイクは切なげに目を伏せた。
練習前。
ダンスシューズに履き替えていた
ニキはそれを終えてロッカーを閉じる。
人の運命なんて、わからない。
けど…昨日、俺は。
1人の人の死ぬ運命が、見えた。
もうすぐ命を落とす人間が、透けて見えた。
普段生活している中で
あまり聴くことのないその質問に
2人が「ん?」という表情で顔を見合わせた。
よく冗談ばかり言うニキが
真剣な顔をしているからなお、不思議に思う。
ま、でも自分が死ぬ時は気になるかもな。
それまでに全財産使い切るわ、俺。
と、そこから2人は別の話をし始めて
ニキもその会話に加わる。
そうだ。関わらないに、越したことはない。
人の運命には逆らうべきじゃない。
忘れよう。
無視していれば、この力だって。
そのうち消えていくかもしれない。
今日も、いつも通りのバイト。
金曜日はカフェよりも酒を飲みに行く人の方が多くて。
店内も少し空いていて、ありがたい。
アイドル目指してるから
恋愛系はちょっと…とは、言えない。
アイドル練習生だってことは伏せてるし、
言って深掘りされるのも嫌だし。
めんどくさいなこの話…と思っていれば、
ちょうど客が入ってくる
カランカランというドアの音が聞こえた。
ナイスタイミング。
我先にとドアの元まで向かい、接客をしようとすれば
目の前で、嬉しそうに微笑む彼。
この間と同じようにマスクをつけていて…
気のせい、だろうか。
少し息が上がっているように見えた。
覚えてる…と言うか、忘れるはずがない。
俺が言うと、
彼は少し恥ずかしそうに手で口元を押さえて笑う。
肌の色が白く華奢なその指先は、
中性的で儚さがある。
その手を見て、ニキは目を見開いた。
その、彼の手が。透けている。
彼の手を越して、つけているマスクがうっすらと見えた。
固まったニキを、
ソヌが不思議そうに見つめる。
ニキは表情を崩さずに
この前の席にソヌを案内して、キッチンへ戻る。
指先が震えていた。
なんで…透けて見えるんだ。
……いや、違う。
なんでじゃない。分かってる。
透けて見えたと言うことは、つまり。
彼の死期が、
すぐそこに迫っていると言うこと。
届けたカフェオレを飲んで
おいしい、と嬉しそうに小さく呟く。
その姿は、さっきよりもさらに透けているように見えた。
彼は死ぬのだろうか。
今夜か、もしくは…明日の朝か。
彼の作る音楽を聞けなくなる。
彼の声も聞けなくなる。その姿も、もう。2度と見れない。
こうして、2回もうちの店に
来てくれたこの喜びは苦しさに変換される。
美味しそうにカフェオレを飲む姿すら、
思い出したくもなくなる記憶になる。
死ぬとは、そういうことだ。
彼はそういう、運命だったのだろうか。
「 運命は変えられるものじゃない 」
ジェイの言葉をニキは思い出した。
…そうだな。俺もそう思うよ。
運命なんて関わらない方がいい。
けれど…彼だけは。
彼の運命がすぐそこに迫ってるのだとしたら。
俺が名前を呼ぶと、
彼はカフェオレから目を離して顔を上げる。
彼は、ふっと俺から目を離してうつむいた。
困っているんだろう。当然だ。
急に訳の分からない事を
言ってくるような人間を警戒しないはずがない。
ましてや彼は、芸能人だ。
こんなふうに声を掛けられる事だってあるかもしれない。
それでも…これだけは。
どうしたって、譲ることができない。
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。